【連載】玉置妙憂の心に寄りそう人生相談<第49回>
数々のメディアにも紹介され大反響を呼んでいる新書『死にゆく人の心に寄りそう〜医療と宗教の間のケア〜』(光文社)の著者・玉置妙憂さんが毎週、読者の悩みに寄りそい、言葉を贈ります。
【今回の相談内容】
実の兄から絶縁を迫られています。最近、母が亡くなりました。母は父が他界してからずっと兄との二人暮らしで、長いあいだ介護が必要でした。そこで、もっぱら母の世話を焼いていたのが兄。自分自身が持病を持ちながらも、優しい性格の持ち主であった兄は、とても献身的に母の世話をしていました。しかし、母の死後、そんな兄から私は絶縁を言い渡されました。理由は私が介護の手助けをしなかったことだと言います。ただ、私たち家族もやれる範囲で精一杯やってきましたし、なによりこれから独りになる兄が心配でなりません。門前払い覚悟で話し合いに行くべきか、今は時をおくべきか。関係を修復するためにはどうしたらよいでしょうか。(64歳・女性・無職)
【回答】
人生いろいろありますね。さぞかしお気持ちの晴れない日々を送っていらっしゃることでしょう。胸がふさがる思いで読ませていただきました。
お兄さまからの絶縁宣言。門前払い覚悟で話し合いに行くべきか、今は時をおくべきか……。私は、時をおくべきと思います。
二人暮らしで献身的にお世話されてきたお母さまを亡くされて、お兄さまは今、その事実を消化することに精いっぱいでいらっしゃるのでしょう。大切な人を失ったあとの虚無感というのは、一緒にいた時間の物理的な長短に比例すると思っています。
24時間一緒に暮らしていた方ならば、そのぽっかり空いてしまった穴は、ちょっとやそっとじゃ埋めきれない大きさでしょう。それを埋めるために、人は泣いたり、怒ったり、ときには当たり散らしたりして、四苦八苦します。時間をかけて、“時間薬”の力を借りて、もがきながらすこしずつ穴を埋めていくのです。
お兄さまは、今まさにその作業の真っただ中。押しかけていって、さらなる負荷をかけるのはお気の毒ですよ。話し合いといっても、つまるところは「私たち家族もやれる範囲で精一杯やってきた」ということをお兄さまに認めさせたいだけでしょう?
今は時をおきましょう。お兄さまの作業を見守りましょう。思いつめすぎてお体を壊すことはないか。病的にお気持ちが沈んでいる様子はないか。注意しながら静かに見ていましょう。
大切なのは、かたくなに背を向けているお兄さまがふと振り返られたときに、そこにあなたさまが変わらずにいることだと思います。
【プロフィール】
玉置妙憂(たまおきみょうゆう)
看護師・看護教員・ケアマネ−ジャー・僧侶。「一般社団法人大慈学苑」代表。著書『死にゆく人の心に寄りそう』(光文社新書)は8万部突破のベストセラー。NHK『クローズアップ現代+』、『あさイチ』に出演して大きな話題に。現在、ニッポン放送『テレフォン人生相談』のレギュラーパーソナリティを務める。