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【連載】玉置妙憂の心に寄りそう人生相談<第55回>

数々のメディアにも紹介され大反響を呼んでいる新書『死にゆく人の心に寄りそう~医療と宗教の間のケア~』(光文社)の著者・玉置妙憂さんが毎週、読者の悩みに寄りそい、言葉を贈ります。

 

【今回の相談内容】

父が大事にしていた庭の花木を兄にすべて刈られて喪失感を感じています。5年前に他界した父は庭いじりが大好きでした。実家の庭には四季折々の花が咲き、それを見るのは私の実家に帰る楽しみの1つでもあります。ただ、実家を継いだ兄は植物に全く興味がないようで、父が亡くなってから植物の世話は専ら高齢の母任せ。以前は父の自慢であった白蓮を枯らしてしまったこともあります。ーーそして今年の彼岸。新型コロナウイルスの影響でなかなか帰れなかった実家に久しぶりに帰ってみると、庭の花木が一本もなくなっていたんです。花壇の小さな花々も含めて全部……。理由はカーポートを作りたいからということでした。家を管理しているのは兄なので責めることはできず。庭を見ては父を思い出していた私は、もう一度父を失ったような、実家を失ったような感じがしてただただ悲しかったです。今後は心のよりどころをどこに求めたらよいのでしょうか。(55歳・女性・会社員)

 

【回答】

諸行無常。この世の中に同じかたちで在り続けるものなどなにひとつないとわかっていても、変わりゆくさまを見ると悲しくなります。胸の奥の奥のそのまた奥から、じわああっと湧いてくる、この抑えようのない気分をいったいなんといったらいいのでしょうね。お父さまのお庭が変わっていくさまをご覧になって、そんな思いでいらっしゃるのではないかと想像します。

 

でも、変わっていくのは世の理。うっかりお兄さんのせいにしたくなりますが、お兄さんでさえ、移り変わる万物の流れの中のひとつでしかないのです。ああ、あなたさまのご相談のおかげさまで、なんだか今日はものすご~く悠久な気分になっています。

 

エネルギー保存の法則って、ご存じでしょう。私はそっちの方面はからきしなんですが、自分なりにこの法則を「すべては地球という器の中でグルグルしている」ということだと解釈しています。

 

つまり、さっき飲んだ水が、体の中で尿になって、トイレから海に流れて、蒸発して雲になって、まとまって雨になって降り、山の上の湖に貯まって、溢れ流れ出して川を下り、浄水場に入って、水道管から私の手にしたコップにそそがれ、ふたたび私のからだの中へ……。こんな感じで、かたちは変われども、本質は決してなくならない。

 

その法則からすると、おとうさまのお庭は、なくなりません。かたちは変わるけど、なくならない。そうかしらと思って眺めると、お父さまの思いがこもった花々があちらにも、こちらにも、ありはしませんか。お父さまもそのことに「早く気づいて」と、「オレの白蓮はあちこちにあるよ」と、おっしゃっているような気がします。

 

【プロフィール】

玉置妙憂(たまおきみょうゆう)

看護師・看護教員・ケアマネ-ジャー・僧侶。「一般社団法人大慈学苑」代表。著書『死にゆく人の心に寄りそう』(光文社新書)は8万部突破のベストセラー。NHK『クローズアップ現代+』、『あさイチ』に出演して大きな話題に。現在、ニッポン放送『テレフォン人生相談』のレギュラーパーソナリティを務める。

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