【連載】玉置妙憂の心に寄りそう人生相談<第70回>
数々のメディアにも紹介され大反響を呼んでいる新書『死にゆく人の心に寄りそう〜医療と宗教の間のケア〜』(光文社)の著者・玉置妙憂さんが毎週、読者の悩みに寄りそい、言葉を贈ります。
【今回の相談内容】
「親の老い」がなかなか受け入れられません。母はこれまで記憶の衰えなど感じさせず、元気に生活をしていました。ただ、90歳を過ぎてから急に物忘れが増え、危なっかしい行動を何度もするように。母も自分に老いが迫っているのを感じているのか、何か失敗するたびに落ち込んで泣いています。私は母が落ち込んだ時は、「こんな元気な90歳、周りにいないよ!」と元気づけ、毎回、失敗しないようにどうするかを伝えるようにしています。母もそのときは「わかった」と答えてくれます。ただ、何度言ってもやることはなく、同じことの繰り返しで、もう小さい子どもに接している気分です。こういうのが「老いる」ということかもしれませんが、それがやるせなくて仕方がありません。親の老いをスッと受け入れる方法はあるのでしょうか。
【回答】
時に厳しく、時に優しく、なんでも知っていて頼りになり、いつでも守ってくれたお母さん。いついつまでも、あの頃のお母さんのままでいて欲しい。本当にそうですね。私も、そう思います。
物忘れが増え、危なっかしく行動する親の姿をスッと受け入れることは、なかなかできません。なぜ、親の老いを受け入れることは、こんなにも難しいのでしょう。思うに、親の老いた姿の先に、無意識のうちに、自分の老いを見ているからではないでしょうか。
私たちは、いずれ誰もが老いて死にます。きっとどなたさまも「そんなことあたりまえじゃないか」とおっしゃるでしょう。でも、実際にその老いや死を、自分のこととして腹に落としているかというと、そうではないようなのです。だってみなさんその時になると「まさかこうなるとは!」とおっしゃるのですから。
つまり、日頃私たちは「老い」や「死」を封印して過ごしているのです。でも、親の老いた姿を見ることでその封印が破られ、人間が根本的に抱えている「なんで人は老いるんだろう」「なんで人は死ぬのに生まれてくるんだろう」という思い(これをスピリチュアルペインと言います)に気づかされてしまうから、心がザワつくのではないでしょうか。となりますと、スッと受け入れる方法は、おいそれとはありません。
あえてご提案するとすれば、「なんで?」ではなく、「こういうもんなんだ」と思うようにすること。考えてもどうしようもないことを、どうしようもないままにしておく胆力を持つことなのです。
やるせなくなってきたら、無理をしてでも「こういうもんなんだ」と声に出して言ってみてください。少しは心のザワザワが、静まるかもしれません。
【プロフィール】
玉置妙憂(たまおきみょうゆう)
看護師・看護教員・ケアマネ−ジャー・僧侶。「一般社団法人大慈学苑」代表。著書『死にゆく人の心に寄りそう』(光文社新書)は8万部突破のベストセラー。NHK『クローズアップ現代+』、『あさイチ』に出演して大きな話題に。現在、ニッポン放送『テレフォン人生相談』のレギュラーパーソナリティを務める。