「子供たちの学びたいという気持ちを、コロナなんかで絶対に消されたくないんです。うちの寺子屋に通う親御さんの半数以上がシングルマザーの方です。コロナで最も打撃を受けている家庭といえると思います。貧困の連鎖もまた断ち切らなければなりません。
しかし、そんな逆境のなかだからこそ多くの支援者が集い、地元の高校や東大とをつないだオンライン授業もスタートしました」
語るのは、東京都北区にあるNPO『寺子屋子ども食堂・王子』理事長の島村勝巳さん(77)。この王子の小さな寺子屋が、コロナ禍での地域の教育支援として注目されている。
設立は、18年9月。場所は、地下鉄の王子神谷駅から3分のマンションの1階。毎週月・木曜の夕方5時30分から、小中学生それぞれ90分間程度、学習支援と食堂が開催されている。現在、通っている小中学生は45人に対して、ボランティア教師の人数は29人。
「東大生はじめ大学生に加え、すぐ裏に住む弁護士や日本有数のITエンジニアなど、地元のさまざまな経歴の方たちが手弁当で協力してくれています」
週1で参加する大手製薬会社勤務の女性(60)は、
「そろそろ定年後の生活を考えたとき、子供たちの成長とともに、自分自身もまだまだ前に進みたいと思って加わりました。毎回、こちらが元気をもらってます」
訪れたのは、コロナによる2カ月の休業が明けた10月最初の月曜日だったが、子供14人に対して先生12人と、まさしくマンツーマンで教科書に沿ったワークブックや宿題等の指導が行われていた。
転機は、昨年2月。新型コロナウイルスの感染拡大により政府が学校の一斉休校を要請したこと。
「ここ寺子屋も休業を余儀なくされ、シングルマザーのお母さんたちから、『島村先生、私たちの職場はテレワークもできません。子供の学びの場をどうしたらいいんですか』と訴えられたときには困りましたが、これまでの地域の力を実感してましたから、私自身は根拠のない自信があったのです」
すぐに支援の声があがった。同じく北区にある私立順天高校が、オンライン授業を提案したのだ。
「帰国子女の多い学校だったこともあり、『自分たちの得意な英語を生かして支援させてください』と。そこへ区の教育委員会がタブレット端末を貸し出してくれたりといった声が集まって、まずは中学生たちが英検3級を目指してのオンライン授業が始まりました。さらに、東京大学のオンライン教室『かしの木』による指導もスタートしたんです」
日本では、子供の7人に1人が貧困状態にあり、特にひとり親家庭の貧困率は50%を超えるなど、OECD加盟国の中でも最悪とされる。
小5の女の子を迎えに来たシングルマザー(37)に聞いた。
「寺子屋に通わせていただきありがたいのは、何より高額な塾代の負担がないことや食事支援です。同時に地域の大人やお兄さん、お姉さんに支えてもらって、娘が何事にも意欲的になったのが母親としてはうれしいし、感謝です」
島村さんは、今後のプランについて、
「まもなく医学部の学生6人も加わります。さらに来春から『育英資金制度』や、協力食材を使った自前の調理場での弁当や、コロナ後は食事の提供も計画しています。いずれ寺子屋育ちの大学生が子供たちを教えるという、より強い地域の循環、絆を作れればと願っています」