「昨年、すべての出演シーンを撮り終えて、大きな花束までもらって盛大に現場から送り出されたのに、しばらくすると職場のカレンダーに『カムカム』と書いてあって。何かなって思っていると、スタッフが『もうすぐ台本が届きます』と言うんですよ。プロデューサーや脚本家は、作品を育てながら作っているようで、回想シーンのアイデアが突然、浮かんだのでしょうね(笑)」
こう語ったのは、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)で、ジャズが流れる喫茶店のマスター・柳沢定一を好演した、世良公則(66)。
今年1月に再登場した回想シーンは、じつは新しく撮影されたものだという。定一はそれだけ視聴者から愛された登場人物だ。
第1部で、ヒロインの安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)の恋の行方を見守り、戦争が始まると息子が召集され、敵性音楽であるジャズを流したことで迫害を受ける。さらに戦後は息子と戦ったアメリカの進駐軍相手に演奏するジャズバンドを斡旋して、懸命に生きる姿が描かれている。
「戦前、戦中、戦後と時代が移り変わり、ジャズが敵国の音楽とされた時代にも、定一はこよなく音楽を愛しました。ボクに重ね合わさる部分もあり、自然体で演じることができたのだと思います。戦争のような異常事態であっても、一般の人にとってはそれが日常。未来が見えないままでも、一瞬、一瞬を懸命に生きる姿が伝わっていれば、うれしいですね」
■音楽業界の未来に危機感を抱いている
コロナ禍で鬱々とした日々であっても、心を動かすことができる音楽の力を、誰よりも世良は信じている。だから、コロナ禍で苦境に陥る音楽業界を見逃すことはできない。
「アーティストの中には、ライブを行っても観客動員数が7分の1、8分の1になっているケースもあります。国会議員とお会いしたときに現状を伝えると『支援金や補助金で対策している』とお答えになりますが、手厚い支援が十分に行き届かず、業界を去っていく仲間もいるのです。調子のいいときだけ〇〇大臣賞を贈って芸術や文化を理解するフリをするだけでは、この国に芸術や文化は根づきません」
音楽、文化に対する熱い思いは、定一と世良の共通点でもあるのだ。