住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、仲間とのドライブで聴いた音楽の話。活躍する同世代の女性と一緒に、“’80年代”を振り返ってみましょうーー。
■“そうそう”とうなずき、共感する歌詞ばかり
荒井由実の時代から50年もの間、不動の人気を誇る松任谷由実だが、13枚ものアルバムをリリースした’80年代は、とくに黄金期と言ってもいいだろう。
「ユーミン好きにとっても’80年代中ごろの作品には特別な思い入れがあるはず。アルバム『REINCARNATION』(’83年)の『川景色』、『DA・DI・DA』(’85年)の『青春のリグレット』などを一番好きな曲に挙げる人も多いのではないでしょうか。『オールナイトニッポン』(’67年〜・ニッポン放送)をはじめ、ユーミンがDJで人気を得たラジオ番組では当時、これらの曲が頻繁にリクエストされていました」
そう話すのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(54)。ユーミンの魅力は、やはり女性の心に刺さる歌詞だ。
「もちろんメロディも素晴らしいのですが、歌詞を聞くと、その場の情景が浮かび上がるほど具体的でリアル。さらに『DESTINY』(’79年)の“たまたま安っぽいサンダルを履いているときに限って、見返したい元カレと会ってしまう”というくだりのように、“そうそう”とうなずき、共感できる歌詞が特徴です」
世はバブル景気の最盛期へと駆け上がっていく時代。高学歴・高身長・高収入の男性がもてはやされ、女性にとっては付き合っている男性の勤めている会社や乗っている車がステータスを表した。
「恋愛ソングにおいても『会いたい』『好きだ』と気持ちをストレートに伝える“バーニングタイプ”の歌詞が好まれました。でもユーミンの歌はもっと落ち着いていて、現実を見据えています。たとえば『青春のリグレット』で、夢を追いかける彼とではなく、普通に結婚することを選んだ“私”は、それを許さず憎むことで、自分のことを忘れないでほしいと訴えます。そういう葛藤をした経験がある人は少なくないはず」
共感性の高い歌詞ばかりでなく、ユーミンの存在自体も大きな魅力。
「’85年に男女雇用機会均等法が成立したものの、まだ多くの女性にとって就職は結婚までの腰掛け。仕事もお茶くみやコピーなど、働きがいを感じにくいものでした。そんななか、ユーミンは、結婚した後も夫婦でお互いに高め合い、第一線で活躍し続けています。“やりがいある仕事を任されたい”“結婚後も成長し続けたい”と考える女性にとって、ユーミンは今でもまぶしく映る存在です」
女性の心に寄り添い、女性の夢を体現したアーティストなのだ。
【PROFILE】
牛窪恵
’68年、東京都生まれ。世代・トレンド評論家でマーケティングライターとして『ホンマでっか!?TV』フジテレビ系)など多数の番組で活躍