「僕が小学生なら、こんな本を読みたいと思って、35年間仕事をしてきただけなんですけどね……」
きつねのゾロリが“いたずらの王者”になるため、イシシとノシシを連れて冒険する「かいけつゾロリ」シリーズ(ポプラ社)。1987年に『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』でスタートした同シリーズは毎年、冬と夏に新刊が出て累計3千500万部を超える人気作に。
同シリーズは、昨年には「1人の作者が物語とイラストを執筆した児童書シリーズの最多巻数」としてギネス世界記録に認定された。著者の原ゆたかさん(69)は世界一になった感想を聞かれ、冒頭のように語って目を輝かせた。世代を超えて子供の心をがっちりつかんで離さない秘訣は?
「子供の目線で作り続けることですね。僕は50歳を過ぎても、スイッチやプレステなどゲームで遊んだり、『月刊コロコロコミック』も楽しんだりしていました。おもちゃ屋に行ってもお金を持っているから“ここからここまで”と買える。まるでプロの小学生だったので、子供の目線に合わせるのは難しくありませんでしたね」
子供目線で書き続けたのは「子供たちに“本はおもしろい”と思ってほしかったから」だという。
「本来、娯楽のひとつである本が、子供にとっては勉強の一環にされてしまう。難しい本を読まされて嫌いになってしまう子も多いですよね。ゾロリをきっかけに本が好きになってくれる子がたくさんいて、サイン会でボロボロになったゾロリの本を持ってきてくれるとうれしくなります」
ゾロリシリーズの最大の魅力は、いつも失敗ばかりのゾロリが、明るく前向きに生きる姿だろう。
「ゾロリがすごいのは失敗ばかりでも絶対にあきらめないこと。人生も、うまくいくことばかりじゃないけど、そこであきらめたら終わり。ゾロリのように“次、行ってみよう”と明るく笑い飛ばすことの大切さが、子供たちに伝わればいいですね。実は僕も嫌なことがあったときはゾロリに励まされることが多いんですよ」
そう語る原さんだが、こんな弱音を漏らした。
「“プロの小学生”として本を作ってきたけど僕ももうすぐ70歳。もうエンディングノートとか書くかどうか迷うような年齢ですよ。年を重ねると、自分の会社のこと、預金のこと、終活など、いろいろ考えないといけないし……。次は、シニア向けにゾロリを書いてみようかな(笑)」
えっ、ゾロリの終活物語!? 取材に同席した児童書作家の妻、京子さんが笑いながら代弁する。
「いえいえ、最新刊が出たあとは、いつも少し弱気になるんです。今は情報を集める時期。次の作品に向けて、使えるネタはないかと映画やテレビをいろいろ見ています」
最新刊が楽しみ! 原さんとゾロリの冒険はまだまだ続く。