住んでいた場所は違っても、年齢が近ければ「そうそう! わかる」って盛り上がれるのが、青春時代、衝撃を受けた映画の話。活躍する同世代の女性と一緒に、“’90年代”を振り返ってみましょう――。
「『もののけ姫』(’97年)は、宮崎駿監督の初期作品、『風の谷のナウシカ』(’84年)でも扱われた人間と自然との関わり、人が潜在的に抱いているであろう差別や悪意をテーマにしています」
そう話すのは、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん(55)。
中世の日本を舞台に、タタリ神と呼ばれる化物を退治した際に呪いを受けて、村を追われた主人公・アシタカの旅が壮大なスケールで描かれる『もののけ姫』。
「メッセージ性の強い作品ですが、監督自身が著作でおっしゃっているとおり、そこに込められたのは『憎悪や殺りくのさ中にあっても、生きるに値することはある』との思い。非常に難解ですが、映画を見終わって作品の感想を話し合うなかで、誰もが『なぜ生きるのか』に対する答えを、自分なりに考えられるような作りになっていたのではないでしょうか」
そんな本作は、『E.T』(’82年)の持つ当時の記録を更新して大ヒット、最終的な興行収入は201億円を突破した。
「ジブリ作品特有のキャラクターの繊細な動きにさらに磨きをかけるため、通常5万~7万枚ほど使用するセル画を、倍以上に増やしたとか。久石譲さんによる音楽、とくに米良美一さんが歌う主題歌は、インパクトがありました」
■“ドル箱アニメ”のビジネスモデルを発明した『もののけ姫』
大ヒットした理由は、こうした作品の持つ力ばかりでなく、鈴木敏夫プロデューサーによる“仕掛け”にもあった。
「同作品のポスターに使用された『生きろ。』というキャッチコピーは、糸井重里さんによるものです。このシンプルな言葉を生み出すまでに、鈴木氏と糸井氏の間で、何度もFAXのやりとりがあったといわれています」
また、ほぼ同じ封切り日だった『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(’97年)に、多くのスクリーンを押さえられていたというが――。
「鈴木さんが配給会社の担当者と粘り強く交渉し、特別な配給態勢を整えたという逸話もあります。さらに、『目標の配給収入を得るには、それと同額の宣伝を行えばいいんだ』と、宣伝スタッフを鼓舞。それが功を奏したのは、’90年代がまだマスメディアの影響力が強い時代だったからでしょう」
今年7月公開予定の宮崎監督作品『君たちはどう生きるか』は、一転して、タイトル以外の情報が伏せられている。
「どういう内容、そしてキャラなのか……。あえて隠すことで、SNSの利用者にも期待感をあおる。時代によって、宣伝の仕方も大きく変わっていくのですね」
【PROFILE】
牛窪恵
’68年、東京都生まれ。世代・トレンド評論家でマーケティングライターとして『ホンマでっか!?TV』フジテレビ系)など多数の番組で活躍