「ドラマは、50%以上は脚本で作品の出来が決まりますが、『らんまん』は、骨太の物語でとても面白い。これは演劇出身の長田育恵さんの脚本力です。登場人物1人1人を多面的に描く挑戦をされていて、朝ドラの新たなページを開いてくれている気がします」
そう分析するのは、同志社女子大学教授で、ドラマから社会を読み解くコラムニスト、メディア評論家の影山貴彦さん。
高知県出身の植物学者・牧野富太郎をモデルに、神木隆之介が主人公の槙野万太郎を演じるNHK連続テレビ小説『らんまん』。7月31日からの第18週では、万太郎(神木隆之介)がムジナモ発見の論文を完成させるが、そこに自分の名前がなかったことに田邊教授(要潤)が激怒し、東京帝国大学植物学教室への出入り禁止と、土佐の植物目録と標本を大学に寄贈するよう命じる……。
「長田さんは、劇団『てがみ座』の劇作家で脚本家。‘19年からNHKでドラマを手掛け、100年前に流行したスペイン風邪をテーマにした志賀直哉原作の『流行感冒』(本木雅弘・安藤サクラ出演)のドラマ化でも、理性を失い人間不信に陥るインテリの主人公の苦悩を描き素晴らしかった。今回でいえば、要潤さん演じる田邊教授にも通じます」
テレビのメディアは、勧善懲悪で、一方だけが悪に描かれることが多いが『らんまん』は違うと影山さん。
「純粋で表裏がなさすぎる万太郎。その周りにいる人も、単に“敵”として描くのではなく、1人1人の人生の機微や、葛藤や苦悩がとても丁寧に描かれています。
例えば、田邊教授は、“女より男の嫉妬のほうが怖い”と感じさせる冷酷さがありつつも、年下の妻の聡子(中田青渚)に示す優しさと人間の温かみも描かれる。長田さんの脚本力が光っています。演じる要(潤)さんも端正な顔立ちに目つきは鋭く、“悪役”が似合う(笑)。視聴者は悪役のこういう温かみに触れると、亡くなった万太郎の厳しい祖母(松坂慶子)や、留学に行ってしまった、実は心優しい助教授(田中哲司)がいたら、万太郎に教授への礼を欠くことはさせなかっただろうにと、思ってしまうんです。それほど、1人1人のキャラが生きています。
万太郎が、これまでの田邊教授への感謝を思い、論文を作成する場面もありました。でもそれが言葉にはならなかった。もう、どうしようもないすれ違いです。まさに、あいみょんさんの主題歌『言葉足らずの愛』とリンクしていて心に響きます」
そんな時、万太郎に厳しい愛情で言葉をかけたのが、志尊淳演じる番頭の息子の竹雄。
「竹雄は万太郎ファーストで自分は二番三番に置く精神もありつつ、最終的には、自分を捨てることなく万太郎と向き合い、自分の想いを心から搾りだす場面がありました。自己犠牲に留まらない、人間的な懐の大きさを演じた志尊さんの名シーンです。彼は顔だちも美しいから、女性ファンも多いですね(笑)」
ドラマは後半戦に入り、怒涛の展開となりそうだ。
「やはり、浜辺美波さん演じる万太郎の妻、寿恵子さんの存在が大きくなるでしょう。寿恵子も、清楚な和菓子屋の看板娘に加えて、『南総里見八犬伝』好きという、当時のオタクキャラとして描かれているのがおもしろい。朝ドラのこれまでのヒロインにはない、令和5年の新ヒロインです。演じる浜辺さんの美しさ、透明度も際立っていますよね。
物語の後半、寿恵子と田邊教授の妻の聡子(中田青渚)が、友達として交流を始めてくれたらいいのにな~と、願っています」
さて『らんまん』、長田さんは物語にこれからどんな“花”を咲かせるだろうかーー。