「ボクが俳優としてデビューしたのは、『ひとつ屋根の下』の前年の秋くらい。まだ駆け出しだったから『月9ドラマの出演が決まったよ』と言われたときは“まさか”という思いでした」
こう振り返るのは、いしだ壱成さん(49)だ。
「すでに売れていた江口洋介さんが主演で、しかもアイドル時代からファンだった酒井法子さんもご一緒するというのだから、うれしさよりも不安のほうが先行していました」
すぐに父親の石田純一にも連絡を入れたという。
「当時の月9俳優といえば、純一さんなので。純一さんが出演していた月9ドラマは都会的でおしゃれでしたが、『ひとつ屋根の下』はおしゃれな要素を排除した、ファミリードラマ。フジテレビとしても実験的な作品だったそうです。だから純一さんからは『オレたちの作ってきた流れを変えるのだから、頑張れよ』と応援されました」
ドラマが放送されると、アドバイスもあったという。
「『あのシーンの歩き方、ニュアンスはこうしたほうがいいよ』とか、ダメ出しに近いもの。ありがたいんですけど、現場でさんざん怒られていることと同じことを言われるから、つらかった」
撮影現場では、若手のいしださんを育てようと、スタッフは厳しかったという。
「すれ違いざまに『いっちゃん、しっかりしろ!』『江口さんと同じようなテンションを保て!』とか、長いシーンで『壱成がダメだったから、もう一回やり直し』とか言われて。楽屋から一歩出ると、ガンガン注意されていました。楽屋で落ち込んでいると、同室の山本耕史くんが『現場にはイジられ役が必要なんだよ。まさか江口さんや福山さんがイジられ役ってわけにはいかないし、ボクは若いから、壱成くんがちょうどいいんだよ』って慰められるんですね」
新人のいしださんにとって「修業の場」であったが、共演者との時間は楽しかった。
「江口さんも福山さんも耕史くんも音楽をやっているから、現場にはボクも含めてみんなギターを持参して、その場で即興セッションすることも。なかでも福山さんとはよく音楽の話をしていて、曲の作り方を聞くと『オレは脳内でメロディが紡ぎ出される』なんて答えて、まあ、かっこいいんです。今でも、たまにメールを送ってくれます。ボクもいろいろあったので、『ちゃんと好きなように生きているか』というポエティックなメールもいただきました(笑)。本当の兄のような存在です」
『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系・1993年)
「そこに愛はあるのかい?」が口癖の柏木達也(江口洋介)が、生き別れた5人きょうだい、雅也(福山雅治)、小雪(酒井法子)、和也(いしだ壱成)、小梅(大路恵美)、文也(山本耕史)と再び共同生活を送り、絆を強めるホームドラマ。ラストの展開が衝撃的!