小栗旬(43)・蒼井優(40)がメインキャストを務める、Netflixオリジナルドラマ『ガス人間』で怪演が際立つ吉田警部役のこばやし元樹さん(52)。本作の大役に抜擢された背景には、小栗との出会いがあった。
「言葉に言い表せないほどの感謝の気持ちです」
7月2日から世界配信されている『ガス人間』(全8話)。1960年の東宝特撮『ガス人間第一号』を原案とするSFスリラーで、Netflix週間TOP10(シリーズ)で1位を獲得。Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)4位にランクイン。世界28カ国と地域でTOP10入りする人気ぶりだ。
生放送中のテレビ局で発生した人間の爆死事件をきっかけに、不可解な連続殺人事件が世間を震撼させる。事件を追う主人公の岡本刑事役に小栗旬。記者の甲野役に蒼井優。こばやしさん演じる吉田警部は、岡本刑事の上司にあたるが、その悪徳刑事ぶりが話題となっている。
小栗が主演を務めたNetflixのドラマ『匿名の恋人たち』(2025年配信)は、2023年に撮影が行われ、グループカウンセリングの場面で、こばやしさんは、怒りを爆発させる男性役として出演し、小栗と初共演していた。
「僕は1シーンだけの出演で、撮影2日間の初日に、感情を荒げるシーンで、芝居があまりうまくいかなくて落ち込んでいたんです。二日目の撮影のときに、小栗さんから、『ニューヨークにいらっしゃったんですね』と。私の事を調べていただいたのか、とても驚きました」
その後、『ガス人間』のメインキャストの一人、吉田役でオファーが来た頃、『匿名の恋人たち』の打ち上げがあり、小栗と再会を果たす。
「そこで、小栗さんがプロデューサーの方に推薦してくださっていたことを知ったんです。頭が上がりません。」
また、『ガス人間』の片山慎三監督は、こばやしさんが出演したDisney+のドラマ『ガンニバル』(2022年配信)の監督も務めていた。
「僕の出演回は別の監督さんでしたが、片山監督が僕のことを覚えていてくださったのも今回の抜擢につながったかもしれません」
いざ、撮影が始まると、現場では主演の小栗が、こばやしさんに声がけをするなどして気遣ってくれたという。
「吉田は、小栗さん演じる岡本刑事役とは決して仲のいい役ではありませんし、僕は器用なタイプではないので、現場でも一人で台詞を真面目に何度も練習したりしていました」
吉田警部は後輩刑事の岡本(小栗)を決して良くは思っておらず、いろいろ策略を起こしていくが……。
「吉田として僕がどういう演技をしても、小栗さんは受け止めてくれました。それはキャラクターとしてもそうですし、一人の人間として僕がやることを全部受け止めてくれるクッションみたいな人です。僕を気遣ってくれてのことなのか、ほんとによく声をかけてくださったおかげで、現場でとても居心地よく過ごせました。主演でありながら、周りをすごく大切にされていて、本当に(器の)大きな人だと感じました。心から尊敬します」
「小栗さんは、やはりオーラもすごいですし、別次元の人だと思います。何より僕の人生を変えてくれた恩人です。
これまではオーディションのチャンスもなかったような役どころに、挑戦できるようになっています。先月、『ガス人間』の配信が始まると、小栗さんからお電話をいただいて。嬉しかったですね」
NHKの大河ドラマ『豊臣兄弟』(吉川元春役)も出演。同局BSプレミアムドラマ『勿忘草の咲く町で~安曇野診療記~』、同局「夜ドラ」『ミッドナイトタクシー』、テレビ大阪『夫に不倫をお願いされました』と、この夏、出演作の放送も続いている。
52歳で、俳優として一躍、注目を集めるこばやしさん。そもそも芝居と出会ったのは、大学生のときだった。
「僕は、近畿大学芸術学科の演技専攻に入りました。そこで大橋也寸先生からフランスのジャック・ルコックシステムという身体表現を基盤として演技を学んだのですが、当時は、『身体で火を表現してください』とか言われても、『何をやらされてるんだ?』と、疑問に感じていて、その深い意味や重要性を理解できていなかった気がします」
大学卒業後、1998年に渡米。ニューヨークの超名門「リー・ストラスバーグ演劇研究所」へ入り、「想像の設定の中で真実に生きる」というリアリズム演技のメソッドを学んだ。
「リアリズム演技を学んだことで、大学時代にやっていた身体表現の経験が演技の土台にあること、その経験が活かされていたことに初めて気づいたんです。あれから30年、僕は今こそ改めて、ルコックや他のメソッドを学びなおしたいと思っています」
こばやしさんは、ニューヨーク在住の日本人演劇集団「俳優集団」を結成。2002年には、ハリウッド映画のオーディションを勝ち抜き、映画『The Great Raid』の準主役の座をつかんだ。
そして2010年に帰国。その後も、2018年映画『FIGHTERS』では、「Love International Film Festival」で最優秀助演男優賞受賞、「The Milan International Filmmaker Festival」で最優秀助演男優賞ノミネート。
2019年には、ラグビー日本代表の奇跡の勝利を描いた日豪合作映画『ブライトン・ミラクル』の共同プロデューサー兼俳優で出演するなど、知る人ぞ知る実力派なのだ。
また、アクティング・コーチとして後輩たちに演技の指導も行っている。
「コーチとしては、演技は生きることそのものであること。技術よりもその前に、『人間としてどこにいても輝けること』が大切だと思っています。だから生徒さんたちにも、『ありのままの自分にOKを出せることが大切であり、良い演技の土台』と、伝えています」
とはいえ、こばやしさん、「実は怖がりで、初めての場所や人が苦手」とシャイな素顔もみせる。
「幼少期は体が弱くて、いじめられっこキャラでした。そのコンプレックスが、僕の根底にあるように思います。役を演じているときが、いちばん自分自身への不安を感じない。役の人間性を借りることで、生きる実感を味わっている気がします。
すごく人のことを気にしますし、人の前に出て何かやるのは、すごく向いてないんじゃないかなと(笑)。やはり怖いですからね、緊張もするし……いつも不安です」
今も、役を演じても「全然足りないと、毎回感じてしまう」と明かす。
「『ガス人間』でも、監督の役へのアイデアを聞くと自分の想像が足りてなかったと思ってしまいますし、監督が満足いくことに、ついていくのに必死でした。吉田警部が持っているであろう劣等感は自分にもあるものなので、よく理解できたんです」
『ガス人間』で俳優として注目を集める今、最大の恩人が小栗ならば、人生最大の功労者は「妻です」と断言する。
高齢となった両親も、配信ドラマを見届けて喜んでくれたそうだ。
「両親は、兄の家で『ガス人間』を見て、とても喜んでくれました」
これからの活躍が楽しみだが、こばやしさん本人は、「いただいた役に真摯に向き合いたいです。クセのあるキャラクターも好きですが、日常を生きる人の役も挑戦したいです」と、謙虚な姿勢は変わらないようだ。
最後に、吉田警部へのメッセージを聞いてみた……。
「配信が始まって、ようやく吉田とお別れした気がします。『愛してる。本当にありがとう』」そう静かに微笑んだ。
遅咲きの花が小栗という恩人や功労者の愛とともに、大きく開花していく。
画像ページ >【写真あり】『ガス人間』で悪徳刑事・吉田を怪演した、こばやし元樹(他1枚)
