神奈川県三浦市では20代の女性が犠牲に(写真:共同通信) 画像を見る

「非常に高額な損害賠償請求が認められる可能性はあると思います」

 

そう語るのは、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士(68)だ。

 

今年のシルバーウィークを直撃した台風25号による大雨で、各地で甚大な被害が発生した。

 

9月21日午後1時55分頃、神奈川県横須賀市長井では自宅裏の斜面が崩れる土砂崩れが発生し、60代の女性が死亡する事故が起きた。報道によると、犠牲となった女性の夫は2年前から神奈川県や横須賀市に対して防災工事を要望していたという。

 

横須賀市の上地克明市長(72)は9月24日の臨時会見で、崩落した斜面は市の所有ではなく私有地であり、所有者に対応を求めたもののそれ以上の介入は難しかったと説明した。

 

公費による急傾斜地崩壊対策事業には、「一定戸数以上の人家が被害を受けると想定されること」などの基準があり、今回の現場はそれに満たなかったため対象外になったと明かした。

 

土砂崩れなどの被害が自然災害によるものであっても、それだけで土地所有者の責任がなくなるとは限らない。崖や擁壁(ようへき)などの管理に問題があり、被害を予見できたにもかかわらず必要な措置を怠っていた場合には、損害賠償責任を問われる可能性がある。前出の牧野弁護士はこう解説する。

 

「予想を超えるような記録的・異常な大雨が原因である場合、法律上は『不可抗力』とみなされて、隣家などに被害を与えても、土地の所有者に過失がないとして損害賠償責任は問われないのが原則です」

 

同氏はさらにこう指摘する。

 

「ただし、事前に崖の亀裂や危険な予兆を認識していたにもかかわらず、適切な措置を怠った場合は、管理過失責任(民法709条不法行為責任)が問われます。擁壁、土留めの老朽化や構造上の欠陥を放置していた場合、土地工作物責任(民法717条)が問題となり、所有者や占有者が重い損害賠償責任を負う場合があります」

 

実際に老朽化した擁壁の補強には数百万から1000万円を超える費用がかかるケースも少なくない。補助金・助成金制度を実施している自治体もあるが、造り替える場合は建物を取り壊す必要があるためハードルが高く、所有者の負担も大きい。

 

横須賀市長井のケースでは、市から所有者に対応を求めていたという。行政から危険性を指摘されていた場合、所有者としては何らかの対策を講じる必要性が高まる。

 

過去の判例を見ると、土砂崩れの損害賠償責任に関して、土地の所有者は被害者の遺族に対して慰謝料等を含む高額な損害賠償を命じられる場合もある。

 

その一つが、1997年7月に兵庫県宝塚市花屋敷で発生した土砂災害だ。

 

住宅が被害に遭い、一家4人が死亡した。過去にも複数回土砂崩れが発生しており、土地の所有者は危険性を十分に認識・予見できたと判断されると、行政からの勧告があっても十分な防災対策を講じなかったとして責任が認められた(賠償金額は非公開)。

 

さらに、2021年7月に静岡県熱海市伊豆山で発生した大規模土石流では、災害関連死1人を含む28人が死亡し、建物136棟が被害を受ける大惨事となった。

 

土石流の発生元となった土地の所有者等は、業務上過失致死罪容疑で強制捜査を受けた。一方、民事では、遺族や被災者ら約130人が県や市、盛り土周辺の土地の前・現所有者らに約43億4600万円の損害賠償を求めている。この訴訟は今年9月17日に結審し、2027年3月に判決が言い渡される予定だ。

 

このように、土砂崩れの危険性を十分に認識・予見できたと所有者の責任が認定されれば、高額な賠償責任を負う可能性がある。

 

台風25号の影響で横須賀市や三浦市、葉山町では土砂崩れが相次ぎ、今年9月29日正午までに確認された被災箇所は3市町あわせて285カ所にのぼった。

 

では、実際に所有する土地で土砂崩れが起き、他人に被害を与えた場合、所有者はどのように備えればいいのか。注意したいのは、一般的な火災保険の水災補償では、こうした他人へ与えた損害の賠償までカバーできないことだ。牧野弁護士はこう語る。

 

「一般的な火災保険の水災補償の対象は自分の家の被害に対してカバーするものであり、他人の家を壊したり、他人に怪我を負わせたたりした場合は、水災補償ではなく『損害賠償責任保険』の領域になります」

 

同氏はこう続ける。

 

「しかし、賠償責任保険のなかには、『台風や豪雨などの自然災害に起因する事故は免責(保険金を出さない)』と規約に定めている商品があるので、使えないケースもあるのです」

 

これから自宅を購入する際には、自治体のハザードマップで内水氾濫についてのリスクも確認することが命を守る上で重要になってくるのはもちろん、土砂崩れから身を守るためには、自治体から「避難指示(警戒レベル4)」が発令されたら、危険な場所から全員避難するというのは言うまでもない。

 

「個人での対策には限界があります。私有地であっても土砂崩れの危険があったら自治体が積極的に介入しなければ、想定外の豪雨災害が起きるたびに被害が出てしまいます。国や行政による現在の支援のあり方も見直す必要があります」

 

豪雨災害から住まいをどう守るのか。地震だけでなく水害対策も待ったなしの状態だ。

画像ページ >【写真あり】擁壁などの管理は土地所有者が損害賠償を問われる可能性も(他1枚)

出典元:

WEB女性自身

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