新しく就任した武部新農水相(写真:共同通信) 画像を見る

「結局、いたちごっこにしかならないんですよ」

 

米国産の生鮮ジャガイモの輸入解禁をめぐる議論が熱を帯びるなか、東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘特任教授(67)は語気を強める。

 

米国産のジャガイモに対しては、侵入すれば農作物を壊滅させかねない「害虫」のリスクが懸念されてきた。その最たるものが、ジャガイモシストセンチュウである。土壌の中でシストと呼ばれる殻が卵を守り、寒さにも乾燥にも強く、卵は10年以上も生存するという。

 

一度、圃場(ほじょう)に侵入すれば完全な駆除はほぼ不可能で、ジャガイモの根に寄生して生産量を落とすだけでなく、種イモの生産そのものができなくなる可能性がある。しかも、ジャガイモだけでなくトマトやピーマンといったナス科の作物全般へ被害を及ぼす恐れも指摘されている。

 

この対策として、害虫に強い「抵抗性品種」の開発が進められており、海外では害虫の増殖を8割から9割を抑制できるといった成果もアピールされる。

 

味や香りなどが違うことから採用が進んでいなかったが、マヨネーズとあえるポテトサラダであれば従来の男爵薯(だんしゃくいも)と遜色はないと、大手食品メーカーが総菜用に採用を進めているという。

 

しかし、鈴木氏は科学的な知見を基に、その安易な楽観論を一蹴する。

 

「抵抗性品種をいくら導入しても、その品種に負けない病害虫が一部でも残っていれば、それが淘汰されずに繁殖して増えてきます。農研機構の海外事例調査でも、抵抗性品種で作付けを繰り返すと、10作目あたりからその抵抗性を打ち破る病害虫が出現することが確認されているのです」(鈴木氏、以下同)

 

病害虫に効果がある強い品種を導入しても、それを克服する新たな個体が生まれる。殺虫剤を使えば耐性を持つ虫が現れるのと同じ構造であり、根本的な解決にはならないというのだ。鈴木氏はこう続ける。

 

「だから絶対抑えられない。いくらやっても次のジャガイモシストセンチュウが出てくる。それなのに『抵抗性品種があるから大丈夫』という話にするのはあまりに軽率です」

 

そう話す同氏は、こうしたリスクが潜む中で進む輸入解禁の手続きにも疑問の声をあげる。

 

「日本の生のジャガイモは、病害虫のリスクを理由にアメリカから輸入を拒否されています。それにもかかわらず、日本側だけがアメリカからの生のジャガイモの輸入を認めるというのは、きわめて非対称です」

 

政府側はWTO(世界貿易機関)のSPS協定(衛生植物検疫措置に関する協定)に基づき、科学的な審査を行っているため逆らえないと説明する場面もあるが、鈴木氏はこの論理の破綻を突く。

 

「ほとんどの国はリスクがあると考えて生のジャガイモの輸入を止めています。WTO協定を理由にするなら、なぜ他国は止めることができ、日本だけが入れる話になるのか。説明がつきません。検疫というのは、各国の自国農業を守るための非関税措置でもあり、政治的な要素で決まっている側面が大きいのです」

 

輸入検討の背景には、自動車など米国製品の輸出拡大や対日貿易赤字の削減を狙うトランプ政権の対日圧力がある。

 

冷凍ジャガイモはすでに各国からの輸入を認め、米国が求める生のジャガイモは2006年からポテトチップス加工用に限って受け入れている。

 

生のじゃがいもは国産を死守しているところ、第1次トランプ政権は2020年に全面的な輸入解禁を求め、昨年の関税交渉でも解禁を迫ってきた。

 

農林水産省はすでに3段階ある手続きの2つめを終えて、近く最終工程に移行する見通しという。

 

政治的圧力や貿易外交の思惑が先行するなかで、侵入リスクのある病害虫が一度でも国内の農地に定着すれば、被害は取り返しのつかない規模へと拡大する恐れがある。

 

実際に北海道網走市では2015年、根に寄生して養分を吸い取る線虫「ジャガイモシロシストセンチュウ」が国内で初確認された。

 

作付け禁止や廃棄の緊急防除が実施されたものの、10年以上たっても根絶にはならず、一部地域では防除が今も続いているという。

 

鈴木氏はこう訴える。

 

「農水省の官僚のなかには何十年も必死に抵抗してきた人もいます。これまでの担当者のなかには体を張って輸入を止めようとして左遷された人もいた、と聞いています。農業を守れなければ、国民の命も守れません。私は高市早苗首相(65)に輸入解禁に向けた手続きをやめてもらうための署名活動を今も続けています」

 

そんななか、10月15日新しい農林水産大臣に武部新氏(56)が就任した。

 

総理官邸で記者団の取材に対して「私の選挙区(北海道第12区)は馬鈴薯の産地で病害虫が出て、大変苦労しながら病害虫とも戦って馬鈴薯を作っている地域で、大変強い懸念を持っている」と述べる一方で、「科学的根拠を持ってリスクをどう評価するか。その評価に基づいて、『どのような管理方法が必要なのか』ということを毅然とした対応で、米国には望んでいきたい」と、輸入前提にした表現で説明した。

 

食の安全と国内農業の現場を守るため、安易な輸入制限の緩和に走るのではなく、厳しい現実を見据えた慎重な判断が求められている。

 

画像ページ >【写真あり】一度でも病害虫が入ってくると、被害をとめることはできない(他1枚)

出典元:

WEB女性自身

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