病院内で撮影された動画がSNSで拡散し、批判が相次ぐ事案が続いている。千葉西総合病院では、女性看護師らが勤務中に入院患者や院内の様子を無断で撮影し、動画を共有していたことが発覚。
病院は10月10日、撮影に関わった看護師2人を懲戒解雇とし、動画を閲覧していた看護師1人を厳重注意とした。動画にはベッドに横たわる患者の姿が映り、「まじ暇」「つまんねえ」「臭すぎ」といったテロップも付けられていた。動画は3人のグループ内で共有されていたという。
また、JR札幌病院でも、看護師が患者の様子を撮影。その後、別の看護師が飲み会の場で動画を見ている様子を撮影し、面白半分で閲覧者を限定したInstagramのストーリーズに投稿したという。投稿は8〜10時間ほどで削除されたが、10月13日に別の職員がネット上で拡散していることに気づいた。
15日には千葉県の柏厚生総合病院と大阪市の医誠会国際総合病院が、21日には福岡県北九州市の済生会八幡総合病院でも、職員による動画などのSNS投稿について謝罪するなど、同様の問題が相次いで明らかになっている。
「一連の問題は、すべてが同時期に起きたわけではなく、千葉西総合病院の問題が大きな話題になったことを受けて、その後雨後の筍のように相次いでSNS上で出てきました。いずれも、100万人以上のフォロワーを抱えるXの有名暴露系インフルエンサーが情報を拡散させており、病院での炎上が盛り上がるにつれて、同アカウントへの情報提供も増えた模様です」(WEBメディア記者)
患者のプライバシーを守るべき医療現場での醜態が、なぜ次々と白日のもとにさらされたのか。ネット炎上の研究も行う、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授の山口真一氏に話を聞いた。
「背景には、スマートフォンで誰もが気軽に撮影・共有できるようになった一方、『仲間内だけなら外に出ない』という思い込みが根強いことがあります。近年は、外に出た動画を暴露系のアカウントやインフルエンサーが取り上げ、一気に広げる例が目立ちます。命や尊厳を預かる医療現場での不適切な行為は、見る人の怒りを強く刺激するため、特に注目を集めやすいのです。
過去の動画が掘り起こされるのは、ネット上の情報が消えにくいからです。元の投稿を削除しても転載などが残り、何年も後に検索で見つかることもあります。ひとつの事案が話題になると、似た投稿を探す人や、関心が高いうちに取り上げて注目を集めようとするアカウントが現れ、過去の動画まで掘り起こされるケースもあります」
では、問題になる可能性があるにもかかわらず、なぜ仲間内で動画を共有してしまうのか。
「多くの場合、悪いことをしているという自覚が薄いまま、軽い気持ちで共有しているのだと考えています。公開範囲を限ると『漏れることはない』と思い込み、対面の雑談に近い感覚になってしまうのです。
動機として大きいのは、仕事の大変さや退屈さを『分かってほしい』、笑いに変えて仲間と分かち合いたいという気持ちです。仲間からの『いいね』や反応は、認められたい気持ちを手軽に満たしてくれます。また、患者の情報に毎日接していると、その重みへの感覚が鈍りやすい面もあります。その場では見慣れた光景でも、外から見れば患者のプライバシーを傷つける行為につながっているわけです」
限られた相手にしか公開していない投稿が、なぜ全く関係のない第三者に流出し、SNSで拡散されてしまうのか。山口氏は、スクリーンショットや画面録画、データの転送などが典型的な経路だと説明する。
「鍵アカウントや時間がたつと消える投稿でも、誰かが保存すれば残り、別のSNSに貼り付けるのは一瞬です。そこから一気に広がるきっかけになるのが、暴露系のアカウントなどへの情報提供です。新聞社や警察に知らせるのはハードルが高くても、人気アカウントにはメッセージひとつで気軽に送れます。友人だけに公開していても、疎遠になった人や友人の友人から、人づてに情報が渡ることもあります」
情報を外部に持ち出す動機は、さまざまだという。
「『こんなことが許されていいのか』という正義感もあり得ますし、驚きや面白半分までさまざまに考えられます。悪意がない場合もあるでしょう。どんな動機であれ、見た人の誰か一人が外に出せば、その時点で誰でも見られる状態と変わりません。一度デジタル化された情報は、公開範囲をコントロールできないのです」
信頼できる仲間内だけに公開しているつもりでも、思わぬ相手に投稿を持ち出されるリスクがある。友人のように振る舞いながら、内心では敵意を抱いている「フレネミー」も、その一例になり得るという。
「限られた人だけが見る投稿を外に持ち出せるのは、それを見られる”身近な人”だからです。SNSの”仲間内”には、親しい友人だけでなく、同僚や昔の知人、友人の友人など、さまざまな距離の人が混じっています。しかも人間関係は変わります。異動や仲違いで関係が冷えても、相手の弱みになる投稿は保存されたまま残ります。また、暴露系のアカウントなどには名前を出さずに情報を送れるため、嫉妬や恨みを抱えた人にとっては、表に出ずに相手に打撃を与えられる手段になり得ます。
こうした流出がどの程度あるかを示す統計は見当たりません。ただ、限られた人向けの共有が安全かどうかは、投稿者ではなく、見る人全員にかかっています。見る人が10人いれば、その10人全員が、この先もずっと外に出さずにいてくれる必要があります。『身内だけなら大丈夫』という前提は、もともと危ういのです」
では、SNS上での炎上は、どのように拡大していくのだろうか。
「炎上は段階を追って大きくなります。誰かが動画を持ち出して批判とともに投稿し、リポストで広がると批判が集まり始めます。ただ、SNSの中だけでは届く範囲に限りがあり、規模を桁違いにするのは、ネットニュースやインフルエンサー、テレビが取り上げる段階です。数百万人のフォロワーを持つ発信者なら、一つの投稿が数千万回表示されることも珍しくありません」
山口氏によると、炎上を拡大させる原動力となるのは「怒りや正義感」だという。
「私の調査では、炎上に書き込んだ理由として『許せない』『失望した』といった個人の正義感にあたるものを選んだ人が、どの事例でも約6〜7割を占めました。ただ、問題を批判する目的であっても、動画を拡散すれば、映っている患者のプライバシーを侵害するおそれがあるので注意が必要です」
では、投稿者や病院などの組織は、炎上が起きた際にどう対応すべきなのか。
「投稿者は、まず所属先に事実を正直に伝え、迷惑をかけた相手への謝罪と説明を急ぐことです。ネット上で反論や言い訳をすると、火に油を注ぎかねません。誹謗中傷や個人情報の晒しを受けたら、証拠を残して、弁護士や違法・有害情報相談センターなどに相談してください。組織は、隠さず迅速に事実を確認し、被害を受けた人の立場に立って、原因と再発防止策を説明することが大切です。炎上は、最初の24時間で方向が決まるとも言われます」
とはいえ、やはり投稿前に“踏みとどまる意識”が最も大事なようだ。山口氏はこう強調する。
「一度投稿したものは自分の手を離れ、取り返しがつかなくなることがある、という点を認識してください。前述したとおり、公開範囲を限っても外に出ないとは限らず、一度広がれば消すことは困難です。『有名人ではないから大丈夫』とも言えません。私がNHKと行った分析では、大規模な炎上の対象として最も多かったのは一般人でした。名前や勤務先が特定されれば、処分や損害賠償の対象になり得ますし、過去にさかのぼって検索され、進学や結婚、内定が取り消された例もあります」
病院や職場など、特にプライバシーや機密情報への配慮が求められる場所では、どのような点に気をつけるべきなのか。
「判断の基準は、『公開範囲を限ったから大丈夫』ではなく、『外に出ても問題ない内容か』です。特に病院や職場では、業務で知った情報と個人の発信をしっかりと切り分けてください。患者や同僚が映っていれば、本人の同意なくプライバシーを傷つけることになりますし、カルテや名札などの映り込みから、人や場所が特定されることもあります。医療職には、法律で守秘義務も課されています。業務中に患者や職場の様子を撮影しないことが基本です」
「仲間内だけ」という思い込みは、情報流出を防ぐ保証にはならない。何気ない撮影や共有が誰かの尊厳を傷つけ、投稿者自身の人生にも影響を及ぼしかねないことを、改めて認識する必要がありそうだ。
画像ページ >【写真あり】高齢患者を見せびらかし、飲み会で笑いものにする看護師の”不適切動画”(他1枚)
