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連載第14回
トレンド満載! ニューヨーカー美人弁護士のお宅訪問

週末の徹夜会議が明けた昼近く、セントラル・パーク沿いの通りで、アメリカ人弁護士数人と乗ってきたリモ①から、ユアサは親友の女性弁護士と連れ立って降りた。
「君の大きなバッグの深い色合いが、いかにもニューヨークの秋だね」
と、ユアサが口にした途端、その若い美人弁護士は足をサッと上げると言った。
「タカシ! こっちも見てみて!」
彼女のヒールもバッグと同じ深い色合いのブルーだった。
「この秋、バッグとヒールの色合いをピタリと合わせることが、ニューヨークトレンドのひとつなのよ!」。そうのたまうと、彼女は自慢げにほほ笑んだ。

 

 

たしかに、今秋ウォール街では、バッグとヒールの色合いを鮮やかにマッチさせた女性たちが増えています。
ユアサの親友美女のバッグの取っ手がやや長めなせいもあって、バッグ&ヒールのコンビネーションはとてもシックで周りの空気を落ち着かせてくれます。訴訟弁護士としての切れ味の鋭さを印象づけるには最適だとユアサは感じる次第であります。
もっとも、ユアサは彼女がヒールを上げた瞬間は、あまりの脚線美に思考が止まっていましたが(苦笑)。実を言うと、彼女も知っていますが、ユアサは「世界一ゴージャスな訴訟弁護士」とニックネームをつけさせてもらっています。

 

 

冒頭のシーンに戻ると、てっきりニューヨークトレンドについての会話が続くと思いきや、美人弁護士はいきなりユアサにその大きなバッグを持たせました。驚いたことに、軽いのである! さらに、彼女がバッグから無造作にスニーカーを取り出したのにはもっと仰天!
「歩くなら運動靴!」と、彼女がうれしそうに笑いました。
実は、少し前にユアサが彼女に頼んでおいた法律の本があったのですが、「持ち歩くには重すぎるのでウチに置いてある」とのこと。その本はニューヨークにない珍しい本だったので、彼女に取り寄せておいてもらったのですが、それを受け取るためにマンションに行きました。

 

 

「タカシ! 手を出して・・・サボテン!」
と、いきなり彼女が何かを投げてきました。電光石火、ユアサは大きくバックステップ②。
親友美女はユアサがラテンのニューステップで踊りだしたと思って、キャッキャと笑い転げながら言いました。
「これが私の今のマイブームよ!」
美しい細工のガラス容器の中にはサボテンと、その隣には多肉植物がきれいにおさまっていました。
この植物をおさめたガラス容器を「テラリウム」と呼ぶことから「園芸テラリウム」ともいわれていますが、ユアサの友人だけでなく、たくさんのニューヨーカーの間で今ブームになっているようです。
彼女は小型の園芸テラリウムをそろえるのが好きだ、と言いながら、別の部屋に姿を消しました。

 

 

そのまま数分間、本に目を通していると、クールな空気を感じました。
目を上げると、新しい服に着替えた親友美女が立っていて、裾をひるがえすと言いました。
「ケイティ・ギャラガー(Katie Gallagher)よ!」
この瞬間、ユアサは彼女と、これから1週間の間、連日連夜24時間、踊り明かしたくなりました。この秋、波が来ている若手ファッション・デザイナーの1人がケイティ・ギャラガーです。
「スポーティな感じもして、近未来の香りもして、パンクな魅力も入っていて、今のニューヨークを感じる!」。ユアサはそう叫んでいました。
ユアサの言葉に大いに満足してくれたのか、彼女はウインクして、いきなりユアサの手をとり一緒に窓際まで歩いていきました。
窓辺にはサボテンのテラリウムが20個ほど並んでいます。大きな窓越しに見渡すと、コーラ色のリモがいつの間にかマンションの玄関入口に待機していました。
「ハハーン、きっと彼女の父親のリモだな。迎えにきてくれたんだ・・・」
そう考えていると、彼女は着替えのために部屋から消えていました。その間、ユアサは必死に本の関連箇所を読みあさりました。

 

 

何はともあれ、ニューヨーク女性のお部屋訪問は刺激に満ちたチャレンジです。
さて、ここで親友美女から離れて、「なぜ、ニューヨークの女性が今のアメリカを引っ張れるのか?」というテーマについて少し考えてみたいと思います。
ヤンキースタジアムでよく耳にすることで有名な『ニューヨーク・ニューヨーク』③の歌の中でも、ニューヨークは激動する世の中の頂点として、味わい深く歌い込まれてきました。
ざっくり説明すると、アメリカのカルチャーやセレブ文化の屋台骨を背負うのは、まじめな話、ニューヨークにからんだ「メディア」や「法」や「マネー」なのです。
「メディア」で言うと、全米テレビネットワークの本部は、ニューヨークにあります。
また、ニューヨークは、「法」の世界でも桁違いな影響力があります。
さらに、アメリカン・カルチャーの「マネー」の部分も、ニューヨークが支えています。セレブ文化を支えるハリウッド映画は、当たればものすごいが逆もありうるハイリスク・ハイリターンの業界なのですが、莫大なファイナンスをハリウッドに長年提供しているのは、アメリカのパワーとマネーの中心地、ここニューヨーク・ウォ―ル街の大銀行群です。
ニューヨークは「トレンド」を作るだけではありません。ニューヨークは「時代」を作るのです!

 

 

ニューヨークがアメリカのトレンドを作るという論理は、アメリカでは「空気」のように当たり前なことなのですが、その主役こそ、実はニューヨーカーの女性たちです。
なぜなら、ニューヨークの女性こそ、全米の人々にとって「憧れ」だからなのです。
と、いうわけで「アメリカ人が憧れるニューヨーク女性」について、ユアサ分析!
まず第1に、ニューヨークの女性たちは「おしゃれ」です。
西海岸の美女たちは、ユアサも断言しますが、とんでもない美人ぞろいですが、ことおしゃれに関しては、ニューヨークの女性たちの足元にも及ばない! というのが、アメリカの常識です。
第2に、ニューヨークには世界中で最も競争好きな人々が集まってきていますが、第一線で活躍する女性はおしなべてその傾向が強いように思われます。国際弁護士ユアサの辞書によれば、アメリカのトレンドとは、「競争の奏でる協奏曲」となります。
世界一競争的なニューヨークの女性こそ、トレンド・メーカー向きなのです。
第3に、全米のほとんどの女性が純粋に、「ニューヨークに遊びに行きたい」と望んでいます。ニューヨークの女性たちのトレンドは、全米の女性たちの「憧れ」を受けとめる温かい「遊び心」に満ちているのです。

 

 

さて、再び話をユアサの親友美女に戻します。
彼女の父親のコーラ色のリモまで二人で行くと、中からTシャツ姿の父親が出てきて、満面の笑みでこう言いました。
「タカシ! なぜ、週末なのに、ひとりでフォーマルな格好をしているんだい?」
法律本を見せて説明しようとすると、彼女が本を自分の大きなブルーのバッグに押し込んで、ユアサと父親をリモへと押し込みました。
「週末だから、フリマに食べに行きましょう!」
親友美女の掛け声に合わせ、リモは音も出さずに動き出し、いつしかマンハッタンの東側の名前どおりのイースト・リバーを越え、ブルックリンのフリマへと向かいました。

 

 

100を軽く超す、ものすごい数のフリマ店でにぎわう中、お目当ての店を見つけました。
ユアサも軽く喉を潤しつつ、まずは彼女のお気に入りのアンチョビ③の料理をオーダーしました。
アンチョビは、ユアサがちょっと前に、ニューヨークの名レストラン『21クラブ』で食べたアンチョビ入りのサラダが、ものすごく美味だったのですが、それ以来の素晴らしいおいしさでした。
あっという間に、食べ終わり、また歩き出そうとしたとき、親友美女が急に両手を広げ、こう叫びました。
「決めた! 次の週末、アンチョビ料理をお父さんとタカシに、私が手料理してあげる!」
美しい娘の手料理の残念な腕前を知る父親とユアサは、期せずして同時に大きくバックステップしていました。  (了)

 

①リモ・・・リムジンのことをウォール街ではリモと呼ぶ

②バックステップ・・・社交ダンスのおかげで、ユアサはこのバックステップが自在に出る

 ③『ニューヨーク・ニューヨーク』・・・ちなみに、ニューヨークを2度繰り返して強調しているというより、英語では、「ニューヨーク(市)ニューヨーク(州)」の「マンハッタン」の意味となる、というのがユアサの個人的解釈です

 ④アンチョビ・・・カタクチイワシ科の小魚

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