連載第27回「アメリカ人が子どもを学校に通わせる真の目的とは?」
春は親子にとって学校を象徴する季節ですが、子どもを学校に通わせる真の目的が日本とアメリカでは大きく異なっている、と国際弁護士ユアサは確信しています。
日本の常識では、親心から口にする「勉強しなさい」が万国共通の決まり文句であるような錯覚にとらわれがちですが、少なくともアメリカの親たちは、成績よりも自分の子どもとトモダチとの人間的な絆を非常に気にかけているのです。
結婚とも子どもとも無縁な人生を送るユアサが、なぜこの話題を? と、読者の皆さまは疑念を持たれるかと思いますが、ウォール街には「子どもたちとの時間の共有こそ、最高の投資である」との共通認識があります。
ユアサも、親友であるアメリカ人弁護士たちをはじめ、多数の友人から、「いつのことやら結婚して、子どもに恵まれたあかつきには、タカシはダンスで鍛えた体力も落ち、子育てに疲労困憊して大変なことになるぞ」などと、長年にわたり〝独身〟を話のネタにされたうえに、彼らの子どもたちのたわいもない話題を、耳にタコができるほど聞かされてきました。そのたびに、日本の親の感覚と、アメリカの親のそれは根本的に違うぞ、と感じていたのです。
さて、以前にもこの連載で述べたように、アメリカの結婚の理想は、ハイスクール時代に恋した相手である〝ハイスクール・スイートハート〟との結婚です。いわば、「学生時代の延長線上の結婚」が、幸せを運ぶというのが、アメリカの社会通念なのです。
すなわち、トモダチを単に学業のライバルとだけはみなしていません。学校が、愛情も友情もはぐくむ場であるという側面に、アメリカ社会は重きを置いているのです。
もちろん、社会に出て、職場でトモダチを作ればいいのですが、「結婚相手同様、学生時代のほうが親友との出会いも多い」というのが、アメリカ人の一般常識なのです。
このアメリカの〝常識〟は、IT全盛の今、より一般化しているようにみえます。
なぜなら、ビル・ゲイツは中学・高校(アメリカではハイスクールと総称)の同窓、親友ポール・アレンと、若くしてITの道を邁進しました。また、スティーブ・ジョブズは、自分と違うタイプで気の合うスティーブ・ウォズニアックと高校で出会い、偉大なIT人生を始めています。
アメリカのIT時代のヒーローは、中高のトモダチが生み出してきているのです。
この考えには、一皮むくと、
「子どもたちよ、自分の道は自らのトモダチと笑顔で力を合わせ、発見し、新たな時代を切り開け!」という親の本音がある、とユアサは分析します。
これを親が明言する場合もありますが、日常的には口にせず、子どもとトモダチとの親交を毎日ほほ笑みながら見つめることで、以心伝心しているようにみえます。
ですから、この「トモダチを作るためにこそ、学校に子どもたちを通わせる」というアメリカ人の親心は、日本には情報としては入ってきにくいのです。
アメリカで大学中退者がシリコンバレーで成功する背景には、中学・高校のティーンエージャーの時代に、すでに将来の仕事の同志となるトモダチがいるからなのです。
国際競争力アップのために、「日本にもシリコンバレーが必要だ」との議論が長い間なされていますが、学校の仲間を学業でのライバルと見なしがちな中高生時代を送る日本社会では、シリコンバレーのような環境は整いにくいのではと思われます。
さらに、日本にシリコンバレーのような環境を整えることが難しいもう一つの理由があります。
2012年の大統領選挙で、ウォール街の大富豪ロムニーはオバマに僅差で敗れ去りました。マネー世界を予測する天才ロムニーは、最後の瞬間まで自分の勝利を疑っていませんでしたし、そのことを知らない人間はウォール街にはいませんでした。
しかし、ロムニーの敗北の原因と分析されたのは、高校時代に彼が学友をいじめたことが選挙戦で最後までマイナスとなった、というものでした。
ユアサ的に言えば、学生時代に「いじめ」をすれば、47年後でも「けじめ」をつけさせるのがアメリカ社会なのです。
裏返して言えば、アメリカ社会において親が学校に子どもを通わせる根本目的こそ「トモダチを作らせるため」なのです。
「学生時代にいじめっ子はいなかったか?」という質問を、アメリカ人の知人友人多数に長年してきたユアサなのですが、最も典型的な答えは、「いじめるクラスメートもいたが、いじめをやめさせる生徒がクラスに多数いて、しかも、いじめっ子以上にもてる体力のすべてをもって阻止するため、力は強いし、スピードも半端なく速い」というものでした。
端的に言うと、いじめっ子をいじめ行為から引きはがす生徒たちの凄まじい形相を、多くのアメリカ人たちが目撃してきているのです。
アメリカの学生生活における「力」を定義すれば、成績やスポーツの力だけでなく、いじめをストップさせる「力」も含まれると、さまざまな職業のアメリカ人たちからユアサは聞いてきています。
「いじめ」を黙認することが、人生の汚点になるという意識が、子どものころからアメリカの子どもたちの間に根付いている理由は、いろいろな背景が考えられます。
家庭生活からまず分析すると、アメリカの親たちの「学校には、トモダチを作りに行くべし」という教育方針が子どもたちに浸透しているためだと思われます。
もう一つの背景は、一般論ですが、アメリカという国が宗教的な影響を多大に受けている社会でもあるからです。
ユアサが、かつてウォール街で背中から人種差別という名のナイフを刺されていたとき、ユアサを助け、人種差別するアメリカ人勢力を全力で鮮やかに叩きつぶしてくれたのは、全米で〝高潔の士〟として著名なリチャードソン元司法・国防長官と、〝ウォール街のファイナンス法の神様〟と呼ばれるローガン弁護士でした。
そのときの2人の言葉は、国際弁護士ユアサの耳に今も焼き付いています。
ローガンはこう言いました。
「ウォール街で差別は存在してはならない、それは神聖なことだ!」と。
リチャードソンはこう言いました。
「タカシ! 何をすればよいかを教えてくれ!」と。
かくして、ウォール街でユアサを差別した勢力を一掃してくれたのは、ユアサの〝トモダチ〟でした。
ここで、冒頭で言及した「子どもたちとの時間の共有こそ、最高の投資である」とのウォール街の共通認識を再訪したいと思います。
子どもたちを育て、共有する時間は親にとって至高の喜びであり、最高の人生の〝時間の投資〟なのである、と国際弁護士ユアサは保証します。
そして、子どもたちに素晴らしいトモダチが学校でできれば、その事実こそ、親の子どもたちへの教育が大成功した証左となります。
アメリカ人の親心から見ると、いちばん大切なのは子どもたちの成績でも業績でもなく、トモダチなのです。そこを親がしっかりとケアすれば、期待せずとも子どもたちの一生の親孝行は自然に返ってくる、というのがウォール街の哲学です。
それでこそ、最高の「投資」たるゆえんなのであります。
なぜなら「トモダチ同士の友情」と「夫婦愛」、そして「親孝行」の共通点こそは、そのどれもが人生を貫き通す強さと温かさを持つという点にあるというのが、国際弁護士ユアサが目撃してきたアメリカ社会の真実だからです。
冒頭の話題で述べたアメリカ人の親友弁護士の一人が、ユアサのニューヨークでのダンスの会のあと、彼の10歳くらいの愛娘とそのトモダチを伴ってあいさつに来てくれました。
娘さんが、実に丁寧な英語でユアサに話しかけてきました。
「タカシの舞台は素晴らしくて感激しました。それをお伝えしたくて、ごあいさつにまいりました」と。
子どもたちこそは、ウォール街でもどこでも最高な存在であると、ユアサは友人の愛娘の言葉にこめられた親子愛の大きさに、心洗われて感動した次第であります。 (了)