みなさん、シェアリング・エコノミーという言葉を聞いたことはありますか? これは「既に存在している資源を他人と共有利用することで、更なる価値が創出される経済」を指すもの。自分の家の駐車場を1日1千円で貸し出したり、パーティに行くためにエルメスのバーキンを1晩1万円で借りるなど、他者と共有することで相互にプラスαの利益が生まれる仕組みです。いま、このシェアリング・エコノミー基盤のサービスが世界中で拡散しています。なかでも圧倒的な成長を見せているのが「Airbnb(エアビーアンドビー)」と「Uber(ウーバー)」です。
Airbnbは一種の空き部屋仲介サービスです。利用すれば、基本的に誰でも自分の家を貸し出しだすことができます。料金も自由に決められるし、宣伝やマッチング、決済サービスはAirbnb側が代行。ホストもゲストも顔写真や実名が公開され、Facebookなどのソーシャルメディアと紐づいている。過去のトラブルなど評価情報も確認できるので、利用者間でトラブルに発展するケースは少ないようです。08年スタートしたこのサービスは10年も経たないうちに190カ国3万4千以上の都市で利用され、100万以上の宿泊先が登録されるまでになりました。
いっぽうUberは、09年に米カリフォルニアで設立された車両共有仲介サービスです。利用者はスマホのUber専用アプリで現在の位置や目的地を入力。するとGPS情報などをもとに、近くで利用可能な車両リストやドライバーの情報(写真、名前、過去の利用者による評価結果など)や目的地までの予想料金などが表示されます。利用後には事前に登録されたクレジットカードで決済されるため、個人間で支払いのやりとりもありません。さらにドライバーに対しての評価を入力でき、低評価が多いドライバーは登録自体が抹消されるようになっています。
このようにAirbnbもUberもサービス内容こそ異なりますが、アプリを使い、GPSなどの位置情報サービスを利用し、信用担保のためFacebookなどのソーシャルメディアと紐づけ、オンライン決済システムを採用。マッチングや品質管理のために利用者から収集したいわゆるビッグデータを使うなど、多くの共通点があります。これは、シェアリング・エコノミー基盤のサービスに共通してみられる性質でもあります。
ただしAirbnbやUberを巡っては、各国で衝突も見られます。たとえばAirbnbは旅館業法上の許可を得ておらず、そのためホテルなど他の宿泊業者が払う税金を免れる目的で利用するケースもあるようです。またマンションの一室を外国人旅行者に貸し出すことで、治安面や騒音面で近隣住民とトラブルになるという事例も報告されています。そしてUberも、許可制で守られてきた既存のタクシー業界から激しい反対を受けています。日本ではいまのところ禁止や制限のような規制措置はとられてはいませんが、多くの国や都市でサービス自体の禁止や一定の制限が課されているのが現状です。
このように破壊的なイノベーションは、消費者にはそれまでになかった大きな便益をもたらしますが、競合にある既存の事業者や規制当局とは対立状態に陥りがちです。ただ歴史が常にそうであるように、シェアリング・エコノミーという時代の大きな流れを止めることは、もはやできないのではないでしょうか。いま問われているのは、オープンで透明な対話。それを通じて、利用者の利益を最大化するための「未来への移行経路」を描いていくことではないかと思います。
ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)
吉本ばなな
1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。