マーリンズのイチロー選手が6月15日(日本時間16日)のパドレス戦でヒット2本を打ったことで日米通算安打数を4,257本とし、ピート・ローズ氏の持つ大リーグ歴代最多安打記録(4,256安打)を抜き去りました。
私はイチロー選手と同じ’73年に生まれたということもあり、彼をずっと応援してきました。私が最初に日本に来たのは93年ですが、その年の彼はオリックスで2軍生活を送っていて、名前もイチローではなく、鈴木一朗でした。まだその才能を見抜く人は少なく、マスコミや大衆も彼に注目することはほとんどなかった。その2軍生活の中でイチロー選手はのちに彼の代名詞となった「振り子打法」を作り上げ、翌年の’94年には日本プロ野球史上初となるシーズン200本安打という偉業を達成しました。
その後も日本プロ野球界で躍進を続け、そして’01年からはシアトル・マリナーズに移籍。野手としては日本人初のメジャーリーガーとなりました。当時イチロー選手に対する現地マスコミの視線は厳しく、日本人野手がメジャーリーグで通用することについてほとんどのアメリカ人が懐疑的でした。
しかしイチロー選手はこうした懐疑論者たちをいとも簡単に打ちのめしていきます。初年度からメジャーリーグの新人最多安打記録を更新するとともに、メジャー史上初となるアメリカンリーグの新人王・MVP・首位打者・盗塁王・シルバースラッガー賞・ゴールドグラブ賞の同時受賞を達成。また’04年にはジョージ・シスラーの持つシーズン安打記録を5本上回る262安打を叩き出し、シーズン最多安打記録を更新する歴史的な記録快挙を成し遂げたのです。そして今回の日米通算最多安打記録、もはや「すごい!」という言葉しか見つかりません。
イチロー選手の何がすごいかを書き出すとキリがないですが、なかでも私は「究極の集中力」を挙げたいと思います。彼のように優れたスポーツ選手は、自分の意志を身体の細胞の隅々にまで行き渡らせることができるのでしょう。驚くほどの精度で身体を動かせたり、瞬時に反応できたりするのも、そうした一つひとつの細胞が確実に脳の指揮に従って活動しているからだと思います。超一流のアスリートが毎日過酷な練習を積み重ねているのも、身体の細胞を限りなく正確に制御するため。もちろん超一流選手のようにはいきませんが、私たちも特訓することでパフォーマンスを上げることはできるはずです。
「体や脳の中で彷徨う細胞を集結させ、一つの方向性に向けて並ばせる力」。これは私にとっての集中力の定義です。集中力さえあれば、未来に繋がる道がたとえ一本の糸のような細さであってもブレずにまっすぐ歩き進むことができます。綱渡りが可能になるのは、体や脳の細胞に対して極めて深いレベルでの制御ができているから。細胞一つひとつに緊張感を持たせ、意志を持たせ、造反組が出ることのないよう整然と統率する。それこそが、集中力のなせる技です。
集中力を高めるには、雑念の統制が必要です。そのためには心の中で静かな空間を確保し、穏やかな領域を広げていくことが求められます。目を閉じ、未来に繋がる光を探し出す。探し出した光が進む方向を直視する。そしてその光を見失わないようにする。決してブレないイチロー選手を見ていると、そうしたコントロールを通じて精神と肉体の完全制御ができているのだと感じました。前人未到の記録をなしとげた彼を、誇りたくなる同年代の仲間としてこれからも応援していきたいと思います。
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