いまフランスで水着論争が起きています。イスラム教徒の女性のために開発された全身を覆う水着「ブルキニ」、その公の場での着用禁止を実施するフランスの自治体が相次いでいるのです。ニース市の海水浴場ではブルキニ姿の女性を複数の警官が取り締まる映像が撮影され、SNSに投稿されました。それにより国内外でブルキニ着用禁止措置をめぐる賛否両論が起きています。
いまや南フランスの海岸沿いを中心に30近くの自治体で適用されている着用禁止措置ですが、まず先陣を切ったのは国際映画祭で有名なカンヌ市でした。カンヌ市長のダヴィド・リナール氏は禁止の決定について「公序良俗と世俗主義を尊重しない不適切な服装をしたいかなる人も、海水浴場の使用は認められない」「宗教的帰属をあからさまに表現する水着は、公共の秩序を乱す危険がありうる」として、ブルキニ着用の禁止と違反行為に罰金を科する決定を下したのです。
フランスでは「ライシテ」という”政教分離の原則”があります。この法律は数百年にわたり繰り広げられたカトリック教会と政府陣営の覇権争いの末、1905年に制定されたもの。その内容は国家が国民の宗教の自由を認めるいっぽう、宗教が政治や教育などの公共の領域に持ち込まれないよう規制するものです。つまり国家が特定の宗教を公認したり優遇したり支援することはない反面、公序良俗のためには宗教活動を制限することができるとも明記されています。
このライシテ原則に基づき、フランスは2010年にヨーロッパで初めてイスラム女性の顔をすべて隠す「ブルカ」と、顔を部分的に隠す「ニカブ」の公共の場での着用禁止を決定しました。ただこれらの禁止措置、フランスに住むイスラム教徒の間でも受け捉え方が若干異なります。
フランスの人口構成に変化がみられ始めたのは1960年代や1970年代に入ってからで、北アフリカや旧フランス植民地から移民が殺到したことによるものでした。移民のほとんどはイスラム教徒で、これら移民第1世代ともいえるイスラム系の人々は自らの意思でフランスに来ているため政教分離に大きく抵抗してきませんでした。
それもあってか2009年までさかのぼるフランスのブルキニ禁止関連法令は当初、それほど厳格に施行されてきたわけではありませんでした。しかし昨年のフランスでのイスラム過激派による相次ぐテロ行為により、状況は変化。なかでも大きかったのは今年7月にニースでテロ犯がトラックで花火大会に向かって暴走し、少なくとも84人が死亡した事件。これがフランス内でイスラム教に対する極度の緊張状態を生み、警戒心を引き上げるのに十分な役割を果たしました。
一方、ブルキニ着用禁止措置には反対意見も根強くあります。男性優越主義のイスラム教から女性の権利を守るためとして実施されている今回の措置ですが、「実際は女性の選択の自由、表現の自由、宗教の自由への攻撃であり、イスラム女性への著しい人権侵害である」という批判があります。また8月26日、フランスの最高裁に当たる国務院は「ブルキニ着用禁止措置は宗教と個人の自由という基本的人権を深刻かつ違法に侵害する」と判断し、凍結を命じる判決を下しました。ただこうした国務院による違憲判決にもかかわらず、ニース市を含む複数の自治体は「それでも着用禁止措置を続行する」という立場を表明。国論を二分する騒ぎは続いています。
政教分離を原則とする「世俗主義」と「個人の自由」のバランスに揺らぐフランスの水着論争、みなさんはどう思われますか。