パンチパーマにマジックで描いたちょび髭、ヒョウ柄の衣装にサングラスをかけた怪しい中年男の名は「ピコ太郎」。この千葉県出身というシンガー・ソングライターがPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)と囁く動画が、世界中で大ヒットしています。最近はマスコミもよく話題にしていますので、ご存じの方も多いでしょう。
ピコ太郎のPPAPが動画サービス「YouTube」にアップされたのは、今年8月25日のことでした。その約1カ月後には同サイトの「ミュージック全世界トップ100」で1位を獲得。10月末時点での動画再生回数は、全世界で4億回を超えています。また10月19日には米・ビルボード・ソング・チャートで77位となり、日本人としては90 年の松田聖子以来26年ぶりとなるトップ100入りを果たしました。曲の長さは、わずか45秒。誰でも簡単に真似できる踊りを繰り広げながら韻を踏み、中学生でもわかる簡単な英語を繰り返す。そのリズムはシンプルですが中毒性が高く、振り付けも誰でも真似しやすいものでした。
そもそもPPAPが世界で注目を集める決定打となったのは、ジャスティン・ビーバーがTwitterでお気に入り動画として紹介したことでした。彼のフォロワーは全世界で8千900万人にも上るため、PPAPの人気は一気に世界中に広がり始めたのです。ただ日本国内でも知名度がほぼなかったアーティストがたった45秒の音楽で世界を席巻するようになったのには、それ以外にも要因が考えられます。
まず、ネットメディアが動画時代に入ったという時代背景が考えられます。YouTube、Twitter、Facebookなどで動画を配信できるようになったことにより、無名のコンテンツも短期間で爆発的に普及されるようになりました。今までは既存のマスメディアから視聴者という垂直的な伝播が中心でしたが、SNSを通じた利用者同士の水平的な伝播が可能になったのです。さらに最近はネットで話題になったものをマスメディアが後から取り上げることもあり、そうした立体的な伝播によって人気が加速する現象が見られました。
ピコ太郎のPPAPがシンプルながらも英語の歌詞をつけていたこと、グローバルなネットメディアであるYouTubeにアップしていたことなどを見るに、最初からそうした流れを狙っていたのかもしれません。つまりSNSを上手く活用すれば、最初から世界で活躍できる可能性があると証明されたのです。そういう意味では、今後のアーティストの活動のアプローチが変わっていく可能性があるように思います。
もう1つ、PPAPの成功要因として見逃せない点があります。それはオリジナル動画だけでなく、数々の派生動画が世界各地から投稿されてお祭り騒ぎになっている点です。著作権者が作品の著作権を厳しく主張せず、むしろパロディを促すようなスタンスを取る。それにより、消費者は自由にコンテンツを再生産できるようになりました。するとオリジナルの価値は損傷されるのではなく、むしろ高まることになったのです。
消費者はパロディ作品を通じてアイデンティティを表現し、SNSを通じて世界中の人たちと共有していく。そしてPPAPを合言葉に国境を超えた連帯感が生まれ、1つの巨大なコミュニティが作り上げられていったのではないかと思います。
オリジナル動画を原材料に誰もが自由にアレンジし、世界に発信し、みんなで楽しむ時代の到来。芸人から長い下積み時代を経て一気に世界に羽ばたくようになったピコ太郎のことを、これからも応援していきたいと思います。