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主夫というのは、いやはや、大変なものです。今日はちょっと愚痴を聞いてください(笑)。だって、朝から晩まで食事の献立考えてるんですからね。夜、子供を寝かしつけるまでやるべきことのてんこ盛り。

たまには、夜の街に飲みに出かけ朝までどんちゃん騒ぎをしてみたいですし、たまには、20代の若者のように行くあてのない旅に出てみたいですし、たまには接待ゴルフだとか温泉旅行だとかにも連れて行ってもらいたいんですが、そうは問屋がおろしませんですね。まったなしの日常に追いかけられ、儚い希望は目の前の現実に木っ端微塵にされてしまいます。

息子が学校に行っている間が唯一息抜きの時間ですが、その時間は連載の締切りなどに追われておりますから、とてもじゃありませんが、自分のための時間なんか持つことは不可能です。すくなくとも、離婚後のこの2年はほぼ自分の時間なしでした。きっと、このエッセイを読んでいらっしゃる主婦の方々の多くが頷いてくださっているに違いありません。

男にだって、更年期があります。告白いたしますと、私もちらっと気が滅入りがちな日々にいます。

しかし、この我慢はまさに貯金のようなもので、息子が成人し、社会に出た後、利息付きの幸福がたんまり戻ってくるのじゃないか、と想像しない日はないんです。そのような妄想を抱きながら日々を乗り越えていくしかありませんね。

でも、我欲のために生きて、大切な幸せを棒に振るには私は年を取りすぎてしまいました(笑)。恋に走れる人をうらやむことはありますが、自分は今、子供と向きあえる日々を大切にしています。

え? 負け惜しみだろうって? (笑)ええ、確かに負け惜しみかもしれません。でも、長い人生、ここだけはぜったいに道を踏み外しちゃならないときというものがあります。まさに今がその時期。仕事と家事の二足のわらじ、頑張って貫き通したいと思います。疲れたときはそうですね、ちょっと酸っぱいものでも作ってがつがつ食べましょうかね。酸っぱいもの、すっきりしますよ。

というわけで、今日は行きつけの和食店の大将から伝授いただいた簡単サーモンの南蛮漬けのご紹介です。フランスの南蛮漬けは生サーモンを使います。日本だとアジですが、骨抜きが面倒です。サーモンだとほぼ必要ありません。私も最初はびっくりしましたが、サーモンは脂がのっていてなかなか美味しいのです。南蛮漬けは油で揚げるのが面倒だな、という人が多いですね。今回はフライパンで簡単に作る方法でやります。まず、南蛮酢を作らないとなりません。

材料:鰹だし(もしくは昆布だし)3、酢3、みりん1、酒1、薄口醤油1、砂糖1の割合で、鍋で沸騰させ、大きめの食品保存容器などに移し、ここで、唐辛子を1つ投入しておきます。粗熱を取っている間に野菜を炒めます。ザク切りのねぎを先行させ(ちょっと焦げ目があるとなおよし)、続いて千切りにしたピーマン、玉ねぎ、にんじんをフライパンで炒め、先の南蛮酢に漬けてください。次に食べやすいサイズに切り分けたサーモンを小麦粉でまぶしフライパンでよく炒めます。コツは熱々の状態で次々に南蛮酢に漬けていくことです。南蛮酢にサーモンと野菜がどっぷり漬からないとなりません。冷蔵庫で保管。翌日には美味しい南蛮漬けができています。

普通の南蛮漬けですが、30分もかからずできるので、便利。金曜の昼に作れば、日曜の夜までは余裕で持つので、主婦の仕事が楽になりますよ。

ボナペティ!

エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!

辻仁成/つじ ひとなり

作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。『息子に贈ることば』(文藝春秋)発売中です。

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