人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!
今回のうさこは!!
酒蔵まで来ています!!
日本酒…それは米と麹と水を用いて古来から作られる日本のソウルドリンク…。
紀元前からその歴史が続いていると一説では言われているほど長い伝統を持つものである。
しかし近代になりいつからか日本酒は「日本の王道」ではなくなっていた。
戦後ビールやカクテル、ワインといった海外からやってきたお酒が幅を利かせるようになり、若者は日本酒に見向きもしなくなる。日本酒冬の時代の到来だ。
そんな悲しい時が長く続いたが、2016年を迎え今、日本酒が再び注目を浴び始めているらしい。
数多く開催される日本酒イベント。利き酒、飲み比べ、勉強会など種類も豊富に開かれる。
日本酒を何種類も置く料理屋も増え、気軽に頼めるよう環境が増えた。
日本酒を紹介するムック本も多く出版される。
若者のなかで、日本酒が古臭いと思われていた時代から「日本酒を飲むのが粋でオシャレ」に移り変わりつつあるのだ。
そこで、うさこは日本酒の良さを再確認すべく酒蔵に突撃!
最寄りの大阪JR日根野駅からタクシーに乗り、行先を告げると「あそこね~!あそこはなぁ、すごいねんなぁ!」とおっちゃんも大盛り上がりの地域酒蔵である。
「テレビにも出たしなぁ、イベントやってよう人来てはるしな~!」
どうやら地元の誇りであるらしい。
10分もしない間に到着した、ここが今回潜入させていただく北庄司酒造さんだ。
大阪の南・泉佐野の地に、大正10年から構える酒蔵である。
どでんと構えるこの蔵の迫力!
圧倒的大正ロマン感…!
扉の中に勢いよく突入し、冒頭のシーンに至るのである。
案内してくれたのは北庄司知之さん。北庄司酒造の次期四代目だ。
さっそく蔵を見せてもらうことに。
扉を開けた瞬間、ぶわっと甘い香りが押し寄せた。
これは…なんという日本酒のかほり…! “酒臭い”じゃなく、“甘い”。
わたしくらいの貧弱女子になるとこれでもう気持ちよく酔えそうです。
お米はお酒のために造られた雑味の少ないお米を精米することから始まる。
ここでは「山田錦」と「五百万石」が原料になるが、
「なんでコシヒカリやサノニシキみたいなおいしいお米をお酒造りに使わないんですか?」とずっと疑問に思っていたことを訊いてみたら、
「お酒になるときに、旨味が雑味に変わっちゃうんですよ。だから、酒造りに適したお米を使います」と教えてくれた。
さらに精米で脂肪やたんぱく質などが含まれる玄米の外層を除く。
玄米の外層は微生物のエサになってしまい、微生物が増えまくって、やっぱり雑味になってしまうらしい。
次にお米を洗って水に浸し、蒸す作業に入る。
蒸し上がり、ひと肌くらいの温度になったら麹室(こうじむろ)へGOだ。
おいしい酒造りの要“麹”。ここで麹を育成する。
ざっくり言えば、菌類の麹。
炭酸ガスや湿気を除き、温度が上がりすぎるのを抑えるため数時間おきに手で揉んでほぐす。
出来た麹をしばらく乾燥させたら、酵母や蒸し米、水と一緒にして
酒母をつくる。名の通り母なる酒だ。
酒母に麹、蒸し米、水を加えて醪(もろみ)を仕込む。
大きなタンクのなか、ぷつぷつと泡立つもろみ。
まるで呼吸をしているようだ…。
ブドウ糖がアルコールに姿を変えていくときに、泡が発生するらしい。
「こんなに大きいタンクで作業していて、落ちたりしないんですか?」とアホなことを訊いてみると
「最近ではないですが、昔はそんな事件もあったと聞きます。
落ちたら酸素がないから息が出来なくて死が待ってます」と想像以上に恐ろしい事実が窺えた。
醪が熟成したら圧搾して酒と酒粕を分け、火入れ(加熱して味の劣化を防ぐ作業)して、ようやく日本酒が完成するんだそうだ。
わたしは思った。
日本酒は日本酒という生き物なんだ…と。
酒造のみなさんは、お米から手塩にかけて育てあげ立派な日本酒に成長させる…。
酒蔵見学はひとつの成長物語だ…!!!
思わぬとこで胸がいっぱいだよ…。
さぁ…彼らがどんな大人に成長したか見てみようじゃないか!というていで試飲タイムの始まりです。
~ここからド素人によるワクワク日本酒解説が始まります~
「hajime」あなたもしかして麹ジュースですか?と聞きたくなるスッキリした甘さ。飲みやすさ。それは逆を言えば恐ろしさでもある…。気が付けば空になってるお猪口におののいてほしい日本酒。
「初走り」流行りの新酒。貯蔵熟成せず、搾った瞬間瓶詰するスタイルのフレッシュなお酒でとてもオシャレな味。ワイングラスに入れて飲んだりするのもオススメだそう。夜景の見える場所で愛を語らいながら飲みたいタイプの日本酒。
「雪香」まだまだ発酵途中の生酒。酵母菌が生きていて、微炭酸を生み出しているんだとか。見た目は白く濁っていてどろどろしていそうだけど、意外にもしゅわっとサッパリ。気合を入れるときに飲みたいタイプの日本酒。
看板「荘の郷」。キングオブ日本酒。ザ・王道。
立派なほろよいうさこが完成。
こんなにひとつひとつ味が違うなんて…!
同じ酒蔵でも、酵母菌や麹菌の種類、発酵期間などを変えることで味の違いを出しているんだそう。
おいしいお酒だけど、どこででも飲めるわけじゃない。
「佳い酒を少しずつがモットーなんです」と北庄司さんは語る。
「欲しい分だけ自分らで作って、自分らで売りに行く形です。地産地消ですね。流行りに乗るというよりは、地元のために作りたい。都会に出していくよりは、地域の人に消費してもらいたい」
育ちもこのへんの泉佐野だと言う北庄司さん。
こんなに手塩にかけて作っていることを知ったら、自分らで最後まで届けたいというのも納得だ。
「みなさんにも、いいお酒を知ってほしいですね。生産量を増やすとどうしても質が落ちる。それを地酒という酒造もあるけど、そういうのを本物と思わんといてほしい!」
地場だけでやっている蔵の存在に気付いてほしいというのが、北庄司さんの願いだ。
現に、ここで飲んだお酒は今まで飲んだどんな有名なお酒よりもおいしかった。
蔵の2階は「蔵しっくホール」と呼ばれるイベントスペースになっていて、イベントも積極的に行っている。
この蔵に遊びに来てもらって、知ってもらうためだという。
日本の地で生まれた“日本酒”。
日本の風土と日本人の味覚に合わせて作られた日本酒が、おいしくないわけがない。
「オシャレだから」「流行りだから」で飲むのもいいけど、
本当においしい日本酒を知って、「日本酒は生き物だ…」と五感で体感してもっと日本酒を好きになってみては??
北庄司酒造
大阪市泉佐野市日比野3173
蔵見学も随時開催!詳しくはHPへ。
http://www.kitashouji.jp/
米原千賀子
ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。
公式サイト http://yonusa.wix.com/4bunno1
ツイッター http://twitter.com/yonusa1