約1,500年前ブームだった「ハニワ」。
時を経て、かわいさで再ブーム!?
ハニワとその奥深い古墳時代の歴史に迫る。

 

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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ……!

 

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「歴女」という言葉が世間に通用するようになってから久しいが、
何も女子がときめくのは江戸時代ばかりじゃない。
「古墳女子」という言葉まで飛び出したように、中には古墳時代がヒットする女子もいるらしい。
中でも「ハニワ」はそのゆるかわいさで、注目を集めている。
確かに丸っこい体も、どこを眺めているかわからない顔もなんだか愛らしい……。

 

しかし、もちろん過去の人はハニワをゆるかわいさで作っていたわけじゃない。
ハニワとは何かを学ぶため、大阪・高槻市の『今城塚古墳公園』に訪れた。

 

春の昼下がりに訪れると、のどか~な公園に他ならないが

 

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公園の土手に円筒のハニワがずらーっと並べられたり

 

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突然のハニワが行列を成していたりと何かとハニワ推し。

 

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公園の横には『今城塚古代歴史館』まで併設される。
そしてトイレの標識も

 

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ハニワだ!!

 

これだけハニワを推すのにも理由があった。
この地はかつて立派な王が眠るどデカイ古墳(通称・大王墓“だいおうぼ”)があった場所なのだ。
どうやら「継体大王」という王さまがここに眠っていたらしい。
さらに近くにはハニワ製造工場(現、新池ハニワ工場公園)があったことまでわかっていて、
1,500年前、この一帯は日本でハニワが最もアツい地だったのだ。
わたしは歴史館の事務長である内田さんに話を聞いた。

 

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――すごい初歩的なことになるんですけど、ハニワって何者なんでしょうか。

全国で16万基の古墳が作られた子悲運時代に、古墳の上や古墳のまわりに立て並べられた素焼きの焼き物のことをハニワと言います。
もともとハニワは、お供え物を入れる壺や、壺を乗せる台を大きくしてデフォルメしたもので、
それが古墳を囲むように並べたことが始まりです。
やがて、霊魂を宿すための家が作られ、
悪いものが入れないための盾や剣、刀が作られ…。
そのうち王の象徴的な儀礼を再現するようなものになりました。

 

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――象徴的な儀礼?

例えばこれは真ん中がイノシシで、両端が犬なんですけど。

 

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実は牙をむき出しにした犬がイノシシを追い詰めてる様子なんです。

 

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――ハートフルな動物たちのふれあいかと思いきや、とんだ獰猛なシーンですね!

犬を見ると、首輪をつけていて飼い犬だと言うことも分かります。
古墳時代、イノシシ狩りは王の力を示すイベントだったんです。
たくさんの家来や犬がイノシシを山の中に追い込んで王が仕留めるという。

 

――王、いいとこどり。

このように、王の実施した生前のイベントなんかも表現されました。
今城塚古墳が出来た時代になると、ハニワは「王は生前こんなことをしてきましたよ」という王の伝記みたいなもの。
特に焼き物なので形として残せない服や髪型、所作まで後世に伝えてくれる。
ハニワは、当時の風俗や儀礼の様子を伝えるタイムカプセルのようなものなんです!
また、これほど大きな古墳ですので、王は即位と同時に墓づくりを始めました。

 

――まるで昨今の終活ブームのような……。

そうです、王は自分でお墓をプロデュースしていたんです。
最新の古墳の形やハニワを自分で作り、部下の豪族に使わせていました。

 

――もうさながらカリスマモデルですね?

デザインを見て「この一派だ!」と分かるんです。
大王墓はモードの発信地でした。今城塚古墳も全国の基準とされていました。
中でもハニワに関しては全国一で、大王直属のハニワ工人が作りました。
今でいう宮内庁御用達のようなレベル。

 

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足や服のシワまで細かく描かれた精緻な技術力は、ナンバーワンでした。

 

――でも、墓づくりってとんだ一大事業ですよね?

この今城塚では、大王の石棺がはるばる九州から運ばれていたことが確認されています。
推定6トン以上あったんではないかと推測されますが、
舟で運び、淀川を遡って、陸路では引っ張ってきたんでしょう。
墓づくりって言うと、ムチ打って奴隷を働かせているイメージですが
古墳やハニワの細部を観察すると、その丁寧な仕事ぶりから、あまり強制的に働かされていた感じではなさそうです。
「王の墓づくりに参加するぞー!」と、お祭りに参加する感じだったみたい。

 

――それだけ慕われてたってことなんですかね?

それもあるかもしれません。

 

わたしはこれまでてっきり「王が死後寂しくないように」という思いやりでハニワが置かれているのかと思っていたが、そうではないらしい。
前方後円墳の円い部分に王が葬られている中心部があるのに対し、

 

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ハニワの位置はというと

 

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超すみっこ。

 

内田さんも「伝記みたいなもの」と言っていた通り、死後の世界というよりは
「この王はこんなに偉かったんだよ!!」と後世の人間に伝えるものだということが窺えた。

 

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ゆるかわいいで知ったハニワを通じて、1,500年前に想いを馳せる。
ハニワは古墳時代への道先案内人なのだ。

 

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長い歴史の中で墓どろぼうにあって、古墳の中からいろんなものが盗まれてしまっても
多くのハニワは幸か不幸か盗まれずに今日まで残ったお陰で、いろんなことを伝えてくれる。
公園にあるハニワ行列はレプリカだが、出土した場所に同じ配置で置かれているため
当時の感動をそのまま味わうことが出来た。

 

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圧巻だ……。

 

継体大王だってよもや1,500年後まで自分のチカラが世に示されることになるとは、到底思わなかっただろう。
「かわいい~!」なんて言われる日が来るとはもっと思わなかったよね。

 

かわいいで終えてしまわず学んでみれば、
そこには1,500年前の日常があった。

 

 

『今城塚古墳公園』/『今城塚古代歴史館』
大阪府高槻市郡家新町48-8
電話:072-682-0820
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(祝日は開館)、祝日の翌日、年末年始(12月28日~1月3日)
入館料:無料(ただし特別展企画展は有料の場合があります)

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