文房具でありながら、庶民にはとても手の出せないイメージがある「万年筆」。
初老の男性だったりスーツの似合う社長だったりアダルティな紳士に許される贅沢……なんて思ってしまいがちだが、そんなことはない。
万年筆カフェで、はじめての万年筆に挑戦する。

 

image

 

image

 

人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ……!

 

小さい頃カリグラフィペンに挑戦するもあえなく使いこなせず惨敗、
万年筆に憧れ続けて十数年……。
わたしは万年筆と親しむべく、気軽に触れ合える名古屋の万年筆カフェ「ペンランドカフェ」にお邪魔した。

 

image

一見普通の喫茶店。階段をのぼり、2階へ向かう。

 

image

まるでファストフード店のような華やかなカウンター。
しかしよく見ると

 

image

サイドメニューと言わんばかりに万年筆が!!!

 

image

ショーケースにも万年筆がずらり。
その数新品・中古あわせ約300本弱に及ぶと言う。
キラキラ光る万年筆が放つ抜群の存在感。

 

image

無地のものだけでなく、風神雷神柄や世界の史跡シリーズ柄など自由なデザイン性が窺える。
1,000円から数十万まで、ピンキリの世界だ。

 

image

これは中古のため88万で販売されているものの、定価はなんと450万円。
世界限定30本。18金無垢のボディに、ダイヤモンドとルビーが嵌め込まれる。
怖くて到底使える気がしない。

 

そもそも万年筆とは、中にインクを入れるものを指す。
毛細管現象(管の中を液体が勝手に上がってく現象)で持続的にペン先までインクが供給されるので、
インクを浸けて使うタイプの「つけペン」「カリグラフィペン」などとは異なる。
この金ピカ高級品にインクを入れることを想像すると、もうその時点で卒倒しそう。

 

あまりの奥が深すぎる世界に愕然としていると、店長が話しかけてくれた。
「万年筆の最大のポイントはどんなものを買っても消耗品ではないってことだよ。使ってるうちに育つんだ」
見た目の良さばかりに目がいっていたが、そんな長所もあるとは。
いつも安物のボールペンばかり使っているわたしにとって、とんだ盲点だ。
「だけど、正しい書き方をしないと一発で壊れる!」
店長は万年筆初心者でであるわたしに対して、万年筆書き方講座を開始してくれた。

 

「万年筆のコツは、指だけを動かすんじゃなくて、手首全体を動かすこと。力を入れず、ペン先を上に向けて使う」

 

image

「ボールペンに慣れすぎてるから難しく思うけど、滑らすだけでいいんだよ。いつも進行方向にまっすぐ」

 

image

こんなに文字を書く練習をしたの何十年ぶりだろう。
でも、それも全ては万年筆を一生モノにするためだった。

 

「俺はね、別に昔から万年筆に興味が合ったわけじゃないんだけど、こいつに出会って変わったんだ」

 

image

そういってケースから取り出したのは銀のボディに黒で絵が描かれるシックで格好良い万年筆。
「見た瞬間に惚れた。かっこいいでしょ?書きやすいかって言われたら微妙だけど、万年筆ひとつひとつ書きやすいポジションを探し出して馴染ませるんだ。
スーツ着なきゃいけない日には、こいつを胸ポケットに差していく」
イギリスの貴族はハンカチじゃなきゃいけないけど俺は貴族じゃないから、と笑う店長にとって
この万年筆は「相棒」という言葉がふさわしいかもしれない。
「万年筆っていうのはね、ただの書く道具じゃないんだよ。心を満たす道具でもある」

 

ひたすらに文字を書いて練習に励んでいると、店長が言った。
「今は書くこと自体が少ないけど、書くっていい文化だよね。書いてると文字を覚えるし、頭が活性化する。何か覚えたいときは書く!万年筆だと書きたくなるんだよ」
確かに、万年筆で書くと綺麗に見えるから書くのが楽しくなる。

 

image

ペンから生まれるインクのグラデーション、太さの強弱、
まるで普段の文字から芸術になっていくようだ。

 

その後、中学生が万年筆デビューをするところに出くわした。
「ボールペンだと使い捨てるでしょ。小さい頃から万年筆を使えば物を大事にしようとする。だからいいことだと思う」
ひとつのものを大事にするということは、人や地球を大事にすることにもつながるのだ。

 

この店では万年筆の修理も行っている。
かつておじいさんの形見の万年筆を譲り受け、修理に持ってきた人もいたと言う。
直して渡す時には、書き方も教えてあげる。
長く使われた万年筆には書きやすい角度があるそうだ。
「そこがあんたのじいさんが使っとった角度だ。このペン使うならそこで使いな」
万年筆を通じて、おじいさんが生き続ける。

 

小さい頃から、大人になっても。あるいは、誰かから受け継いで。
万年筆はデザイン性の高い側面や文字をうまく見せる部分もあるが
思い出を乗せることもできる文房具でもあった。
わたしは一番安い1,000円の万年筆を購入。
文字をひとつひとつ大事に書いていくと、いつも以上に想いが乗る気がする。

 

image

万年筆に出会ったら、ただの道具が「相棒」に変わった。

 

 

『ペンランドカフェ』
http://www.pen-land.jp/
愛知県名古屋市中区大須2-17-17-2F
営業時間:11:00~20:00
定休日:毎週水曜日

関連カテゴリー: