(C)ウラモトユウコ/小学館
『お笑い』→『海外ドラマ』→『マンガ』→『ラジオ』の4ジャンルを週替わりで、そのスペシャリストが“最推し番組”を指南する『今週の萌えガタリ』。今週は『マンガ』ということで、幼いころからマンガ好きな、歌人・小説家の加藤千恵さんが最推しマンガを紹介!
【最推しマンガ】『fit!!!』ウラモトユウコ著・小学館
今の職業につき、家で仕事をするようになって、つくづく運動不足を実感する。肩こりも腰痛も、いつしか身近な存在だ。運動しなきゃ、と思いはするものの、フィットネスのガラス越しに身体を動かす人たちを見ては、やっぱりわたしには無理だ、と引き返すような日々。
けれど今回、『fit!!!』を読み、やっぱり通おうかなあという気持ちが生まれたのは事実である。メインの登場人物は女性三人だ。ラーメン食べ歩きが趣味で、その界隈ではちょっとした有名人でもあるテンポ。美人だし、美にも意識的であるが、自分の身長の低さがコンプレックスのサナ。フィットネスで先生として働き、エアロビ教室などを受け持っているユイ。
テンポがフィットネスに通いはじめた理由は、代謝を上げて、ラーメンをいっぱい食べるため。サナは、筋肉をつけ、さらには姿勢を改善して身長を伸ばすため。まるっきり違うタイプの二人が、優しいユイ先生のアドバイスを参考にしながら、フィットネスに通い、そこで交流を深めていく。時に新たな出会いなどもありながら。
この物語の中に、大事件は起きない。三人がそれぞれに何かに気づいたり、何かを思ったり、体重が少し変動したり、他人からはわからないほどの変化をしたりもするけれど、いずれも些細なことだ。
だからこそ引き込まれる気がした。ここに自分がいてもおかしくないと思わせてくれる空気感。あるいは反対に、テンポがやサナやユイは、わたしたちと駅前ですれ違ったりしているのかも、なんてつい想像してしまいたくなる。
親しみやすさには、設定の妙や、とても見やすくかわいらしい絵(ちなみに作者のウラモトユウコさんはイラストレーターとしても活躍中で本の装画などもよく手がけている)はもちろん、登場人物たちのウエアも関係しているかもしれない。彼女たちが身につけているウエアにはアシックスのマーク。作品を読んだあと、実物を探してみるという楽しみ方もおすすめしたい。
その道の頂点を極めたような人の姿勢や行動力に感動することもあるけれど、ふとすれ違った、自分とそう変わらなく見える人の一面が、動き出すきっかけとなることも多い。フィットネスに限らなくても、何かを始めたくなる。『fit!!!』は自分を、いつもとは少し違う場所に連れていってくれる作品になるはずだ。