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15年12月某日 ヨーロッパ上空

クリスマスの日、毎年恒例イタリアの実家での親戚一同集結大飽食昼食会がおこなわれ、小姑の彼氏からクリスマスプレゼントとして封筒を渡されました。中に入っていたのは、スター・ウォーズの最新作『フォースの覚醒』のチケット。自分たちの分のチケットもあるので、是非この年末年始に一緒にどうかと誘われたのですが、翌日は日本へ発つので映画を見られるのはその日しかありません。一瞬戸惑うも、義妹の私の顔色をうかがう視線に気がつき、「今日でいいなら」と答えて結局そのままみんなで映画館へ。プレゼントに私が乗ってくれたことで嬉しそうな彼氏を見てほっとしている義妹にほっとする私。

31歳になった義妹は今までなかなか良い恋愛運に恵まれない人生を過ごして来ていました。女性関係にだらしない駆け出しのサッカーの審判とか、借金大魔王のミュージシャンとか、宇宙人と交信を取ろうと真剣になっている無職の男とか、離れて観察している分には面白いけど彼氏ってことになるとどうなの? みたいな男とばかり付き合ってきました。

しかし! 今年の春「男なんてこの世から全員絶滅しろ」と悪態をついていた彼女が、見るからに謙虚で、ちょっとお洒落で、喋り方もイタリア人とは思えない、もの腰の柔らかな好印象男子を伴って実家に現れ、私たち家族は全員心の中で涙を流しながら歓喜を分かち合ったのでした。〝やっと、やっとまともな男子を連れて来た!〟と。

前置きが長くなりましたが、まあ、そんな彼氏から「一緒に」と誘われたらなんとなく、これからの2人の明るい未来を慮ってしまい断るわけにはいかず、我々はいざ街の小さな映画館へと向かったわけです。

しかし、なんということでしょう。確かにクリスマスという日は家でごちそう三昧をしてだらだらしていたい日なのかもしれませんが、それにしても映画館は驚く程ガラ空き。私たちはギャラリー席の一番いい座席を占拠する事が出来ましたが、それにしても日本での盛り上がりに比べてこの違い。

正直のところ、家にはまだ描きかけの原稿も残っていたし、日本への出発の荷物の準備もできていない状態だったので、最新版スター・ウォーズは見たいけど、別に今じゃなくていいよね、という少々ノリに欠ける心地だったのですが、しかし、がら空きの映画館で特等席に座ってしまえば気心も変わります。

ジョン・ウィリアムズによる壮大なあのテーマ曲がかかったとたんに一気に意識は正面の大スクリーンに吸い込まれ、他の事は一切何も考えられなくなっていました。少なくとも私にとってのスター・ウォーズは人生において尋常ではない衝撃を受けたSF映画であり、このテーマ曲を聴くだけで1978年、一作目が初めて日本で公開されたときに見に行った、あの骨の髄すら奮える思いの感動が蘇ってきます。

なんだかんだでスター・ウォーズのシリーズは全てを見てきていますし、生まれてきた子供にもこれだけは面白さを共感したいと小さい時から映画館に連れていって見せてきましたが、気がついたらその子供ももう21歳……。というか、1978年ってこの間の事かと思ったら、もかれこれ38年前じゃないですか!!  私たちって今いったい何歳なの!?

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気分は完全に数十年ぶりの同窓会

今回の最新作である『フォースの覚醒』は、まさに、あの38年前に公開された初回のスター・ウォーズを見に行ったおっさんおばさんならきっと誰しも、感動に打ちひしがれる内容になっていると思われます。

ストーム・トルーパー(私的には彫刻家ガウディの曲線のような真っ白な甲冑に身を包んだ兵士たち)のひとりが「オレってこんな事してていいのかよ!」と正義に目覚め、反逆者になるという、今までに無かった斬新な展開から始まり、そして次に画面に現れるのは砂漠の中で難破した宇宙船の部品などを売って日銭を稼ぎつつ孤独に生きる女性のレイ。つい数ヶ月前に見た『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』もそうですけど、時代はなんとなく、強いヒーローというステレオタイプは薄れ、ジャンヌ・ダルク的な闘うヒロインに焦点が当てられる傾向が強くなってきたように思われます。

たしかに、自分が暮らすイタリアの周りの環境を見ていても、絶対に女性の方が男らしいというか、精神的にも圧倒的に強い気がしますが……、スクリーンの中の闘う女性はさすがに皆壮麗で美しい。レイもイギリス人の新人女優さんだそうですが、少女と少年っぽさを兼ね合わせたジェンダーフリーな魅力を備えた人です。

その後に展開される手に汗握るスペース・バトルに視覚もメンタルも若い時とちがって少々疲弊気味になっていると、そこに現れたるは初老化したハリソン・フォード……じゃなくてあのハン・ソロと、チュー・バッカ。再びアドレナリンが沸き立ち、もの凄く久しぶりの親戚に会えたみたいな懐かしい感慨でいっぱいになりました。主人公2人が、まずミレニアム・ファルコンというあの伝説の宇宙船に乗っている絵柄だけで、感無量状態。ああ、そうか、この映画はかつて若い頃にエピソード4を見た観衆の、こういう効果も狙って作られているのだなと気がつくも、それならまだ出て来て欲しい人がいるなと期待して待っていれば出ました、初老のレイア姫、そして C-3POとR2-D2。

気分は完全に数十年ぶりの同窓会。一緒に見に来ているのが皆30代前半の若者だったので、私が目を潤ませながら左右彼らの表情を伺っても、そこまで感極まっている感じの人はいなくてちょっと残念でしたが。

まあ、あまり喋り過ぎると意図せずともネタバレになってしまうから、この辺にしておきますが、とにかくなんていうのか、今回のスター・ウォーズこそ老若男女全員がいろいろな側面で楽しめる娯楽作品に仕上がっていると思われますし、同時に今の世の中の様々な事象を客観的に思い浮かべたり考えたりするきっかけも提供してくれることでしょう。

私にとってのスター・ウォーズはやはり一作目が一番の名作ではあるのですが、今回のような思いがけない感動を提供されると、やっぱりまだこの先も何が起こるのか気になりますし、次回作が待ち遠しくなります。

とりあえず、スター・ウォーズが続く限り、今後も元気に生き延びていきたいと思います。

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