デビュー作が朝ドラヒロインの相手役だった川野太郎 画像を見る

「『澪つくし』のオーディションは事務所スタッフが応募したのですが、締切りを過ぎていて書類すら受け取ってもらえず、仕方なく資料の山にボクの写真を挟み込んで帰ってきたそうです」

 

出演経緯を振り返るのは、川野太郎さん(64)。当初はチャンスを逃したと諦めていたが、紛れ込んでいた川野さんの写真が、制作サイドの目に留まったのだ。

 

「1次、2次のオーディションでは、セリフを渡されてプロの方と演技したり、漁師の役ということで、上半身裸でカメラの前に立ったりしました」

 

直前まで大学野球に打ち込んでいた川野さんは、色黒で体格ががっしりしていた。漁師役のイメージに近かったのだろう。制作発表の前日に呼び出され、オーディションの合格を告げられた。その時点で沢口靖子桜田淳子と共演することを聞かされたという。

 

「一応、『高山烈』とか『早坂浩』と芸名を考えていたんですけど、スタッフからは『沢口さんも桜田さんも本名だから、新人の君も本名でいけ』と言われました。野球部を引退して丸刈り人生から卒業できると思っていたのに、その足で床屋さんに行って五分刈りにし、翌日には学生服を着て制作発表に出席しました」

 

当時の撮影現場は厳しかったが、新人俳優を育てようという空気があった。

 

「加賀まりこさんとのシーンで、ふいに“ボクはなんでテレビで見ていた女優さんと一緒にいるのだろう”と、ポカーンとしてしまったんです。すると加賀さんから、『間があいたら、自分だと思え、バカ!』って怒られました(笑)」

 

柴田恭兵は自分の出番がなくても現場に残り、芝居を追求するタイプだったという。

 

「ボクを気にかけて『太郎、バッティングセンターに行くか?』と気分転換に連れ出してくれたりしました。靖子ちゃんとの大事なシーンなのに、スタッフがざわざわしているときがあったのですが、恭兵さんが『今、大事なシーンだから、静かにしてくれないか!』とピシッと言って、雰囲気を作ってくれたことも」

 

ベテランに支えられたドラマの視聴率は、平均が約45%、最終回は55.3%を記録した。

 

「昨日まで大学生だったのに、放送開始翌日から電車でも街中でも声をかけられるように。プライベートなのに『今日は靖子ちゃん、いないの?』って聞かれたときは、困りましたね(笑)」

 

『澪つくし』NHK・1985年)

大正時代末期~戦後の千葉県銚子市を舞台に、醤油屋の娘・かをる(沢口靖子)と漁師の網元の長男・惣吉(川野太郎)の純愛を描く。新人だった沢口の成長とともに視聴率も急上昇、最高視聴率は55.3%を記録した。

 

【PROFILES】

かわの・たろう

1960年、山口県生まれ。デビュー作となる‘85年の朝ドラ『澪つくし』で一躍人気者に。朝の情報番組の司会や『料理バンザイ!』のレポーターなど、俳優以外でも幅広く活躍。

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