7月28日、さいたま市に住む全盲のマッサージ師の男性Aさんが連れていた盲導犬のオスカー(オス・8)が何者かに刺された。Aさんは、午前11時にオスカーと自宅のある浦和駅から電車に乗ったのだが、東川口の職場に着くまで、犯行に気が付かなかったそうだ。
「盲導犬が鳴かない訓練をしているというのは、いわゆる“ムダぼえ”のこと。オスカーも痛ければ鳴いたかもしれません。ただ、飼い主さんが鳴き声にも気付いていないとなると、犯人は刺されたことがわからないくらいに刃物を鋭利にして傷を負わせたのではないかと……」(盲導犬訓練所、アイメイト協会・塩屋隆男代表理事)
人懐っこいラブラドールレトリバーの背中には直径5ミリの穴のような傷が4つ並び、凶器はフォークではないかと推測される。犯人はわざわざ刃先を研いで犯行に及んだのだろうか。この事件は波紋を呼び、愛犬家たちからは怒りの声が上がった。再発防止に何をすべきかという議論も白熱している。
民主党の海江田万里代表は定例記者会見で「盲導犬への攻撃は、障害のある人への攻撃と同じ。器物破損罪での捜査で本当にいいのか。今の法律を変えるべき点があれば変えて、再発防止に取り組みたい」と語った。
「もし今回の事件でオスカーが心の傷を負っていた場合は、盲導犬としての仕事に支障が出る可能性があります。たとえば電車の中で刺されていたら、今後、電車に乗ることを躊躇するかもしれない。それは危険なことです。診断してみないとわかりませんが、同じ状況で、オスカーが不安のあまり予測できない行動をとるとなれば、ユーザーさんの命にも関わりますから」
こう話す入交眞巳(いりまじりまみ)さんは、日本獣医生命科学大学講師。日本で唯一、米国獣医行動学専門医の資格を持っている、いわば“動物の精神科医”だ。アメリカでの医療体験から、こんな指摘をする。
「アメリカでは、動物虐待が露見した時点で、アニマルポリスや警察が犯人を捕まえます。放っておくと、高い割合で次の事件を起こしますから。動物を虐待する人というのは、いずれ人間も傷つけるんです」
そして今後の具体的な対処法について、入交さんは言う。
「『器物破損で終わりなの?それじゃ犬がかわいそう』という感情論ではなく、きちんと捜査をし、犯人を割り出し、必要ならば精神科の治療をすべきなのです。歩いている犬を刺すというのは、やはり異常行動ですから」