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《私は親として、娘を守ってやる事が出来ませんでした。最後の親のつとめとして、娘をこれ以上、世間のさらし者にしたくはありません。ただ、ただ、出来るだけ静かに見送ってやりたいのです》

 

福島県の17歳高校3年生の母親が、この文章を書いたのは11月9日、神奈川県座間市「9人惨殺」事件の白石隆宏容疑者(27)が逮捕された9日後。殺された娘の顔写真や実名を報じることをやめてほしいと、訴えるための書面だった。しかしほとんどの報道機関が、この嘆願を黙殺したのだった。

 

11月10日未明、座間市のアパートで切断された9人の遺体が見つかった事件で、警視庁は新たに8人の身元を確認したと発表した。これを機に、大手テレビ局、新聞社はこぞって被害者たちの実名報道に踏み切った。だが、全国紙の社会部記者は次のように語った。

 

「いちはやく身元が特定された東京都の23歳女性については、11月6日の時点で、遺族が警視庁を通じて、各報道機関に文面を送っています。それは《亡くなった娘の氏名報道はお断りするとともに……》という一文で始まるものでした」

 

そんな要請があったにも関わらず、23歳女性の実名は報じられ続けたのだ。

 

「10日未明に、残り8人の身元が判明したことを警視庁は会見で発表しました。そして遺族たちからの文面を報道各社に配布したのです」

 

それは8人の被害者たちの遺族や、遺族が依頼した弁護士たちによる9枚の“要請書”だった。冒頭で紹介した福島県の17歳高校3年生の母親による直筆書面も、そのうちの1枚だ。遺族たちが求めていたのは取材の自粛と、顔写真や実名報道をやめることだった。

 

《どうか、私達の気持ちを考えていただき、娘の実名・写真掲載による報道は一切ご遠慮ください》(神奈川県の21歳女性の母親)

 

《今後とも本人及び家族の実名の報道、顔写真の公開、学校や友人、親族の職場等への取材も一切お断り致します》(群馬県の15歳高校1年生の遺族たち)

 

このように被害者遺族たちが団結して強く要請したにも関わらず、実名・顔写真報道は続けられたのだ。

 

「遺族に配慮して匿名報道を続けたのは一部のスポーツ紙ぐらいでした。遺族たちがここまで強く要請した背景には、座間事件が抱える2つの特別な事情があります。1つは、“死にたい”などと語っていた被害者たちがいたこと。もう1つは、白石容疑者が被害者女性たちに性的暴行を加えていたと、供述していることです」(前出・社会部記者)

 

埼玉県の17歳高校2年生の遺族の依頼を受けた弁護士は、本誌にこう語った。

 

「ネットで騒がれるぶんには、遺族も見ないようにするという対抗策がありますが、大メディアが報じている場合、避けることが難しくなります。テレビをつければ、亡くなった子や、自分たち家族のことが報じられているわけですからね。朝も夜もなく、遺族たちは苦しみ続けているのです」

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