「乳がんは2つの種類に分類され、乳房内にしこりができたり、乳房付近の皮膚のひきつれやくぼみができたりするのが浸潤性乳がんです。名前のとおり浸み出してきて、血液やリンパの流れに乗って遠隔転移を引き起こします。一方、乳管の中だけでがん細胞が増殖するのが非浸潤性乳がんです。ほかの部位に転移することはないと言われていますが、放置しておくと、いずれがん細胞が乳管を突き破り、体中にがんが飛び散る危険性があります」

 

そう教えてくれたのは、乳腺専門医でナグモクリニック総院長の南雲吉則医師。南雲医師は「非浸潤性乳がんは、乳房の広い範囲にがん細胞が散らばっていることが多いので部分切除が難しく、一度乳房内をすべて切り取る全摘手術になることがほとんどです」と話す。非浸潤性乳がんはきちんと手術をすれば、その後の心配は少ないがんだが、女性にとって大切な胸を切り取らなくてはならないのが実状だ。

 

「非浸潤性乳がんの患者さんには、皮下乳腺全摘同時再建手術を勧めます。文字どおり一度の手術で乳がんを取り去り、そこに新しい胸を再建する手術です。それに加えて、病気にかかっていない左胸もバランスを整えるための豊胸手術を行います。豊胸手術はしなくても病状には関係ありませんが、両胸のバランスが悪くなってしまうことが多いので行う患者さんは多いです。乳がんの切除から再建、豊胸までを一度の手術で終わらせることが可能なんです」

 

今では多くの乳がん経験者が、失った乳房を取り戻すための再建手術を行っている。しかし、再建手術が広まったのは、まだ最近のことだと南雲医師は言う。わずか十数年ほど前までは、再建手術に積極的に取り組む医師は少なかったそうだ。

 

「まずは命を救うことが大切で、美容的なことまで考えるのは不謹慎だと考えられていたからです。私が日本で初めて皮下乳腺全摘同時再建手術を発表した1994年当時は、女性らしい美しいバストを維持することは、二の次に考えられていたため、なかなか受け入れてもらえませんでした。現在は症例数が増えて、術後の生存率も変わらないことがわかってきて、徐々に受け入れられてきました」

 

また、自分の胸を残すことが主目的となった過度な温存手術は危険度が高く、美容的にもお勧めできないと南雲医師は語る。

 

「がんが少しでも残ってしまえば再発の危険性が高くなるので、安全性を第一に考えてがんの患部は大きく切除することが鉄則です。また部分切除とはいっても範囲が大きい場合は乳房が不自然にゆがんでしまうので、安全性と美容的な側面を考えて、全摘出をしたうえでの同時再建手術をお勧めしています」

 

今年7月から、乳がんの全摘手術後に使う人工乳房に公的医療保険が適用されることとなった。これまでは全額自己負担だったが、健康保険の適用によって原則3割の窓口負担ですむため費用の負担が大幅に減る。これまで経済的にあきらめなくてはいけなかった人も積極的に再建手術に臨むことができる。

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