コピーライターの平岡禎之さん(53)が、地元紙『沖縄タイムス』で4コマ漫画『うちの火星人』を連載し始めたのは今年7月のこと。登場人物の夫人と4人の子供は動物のキャラクターを使って描かれている。

 

平岡家は妻、長女、長男、次女、次男の5人が発達障害。漫画は、家族を守るために父が作った“取扱説明書”。漫画を描くのは今回が初挑戦だったにもかかわらず大反響を呼び、当の子供たちもみなキャッキャと笑いながら読んでいる。そうやって、自分がほかの人と『ちょっと違う』ことを、少しずつ理解していく——。

 

「息子さんの件で、一度学校に来ていただきたい」。それは4年前。次男(16)が通っていた中学校の教師からこんな電話が入った。ちょっと変わった個性の持ち主が多い平岡家。学校から、この手の呼び出しが来ることは珍しいことではなかったが、次男のケースは少々深刻だった。

 

次男は自分の物と他人の物を区別するのが苦手で、他人の物を持ち帰ってしまうことがあった。また、ドッジボールなどの団体競技や集団行動のなかでパニックになり、学校を飛び出してしまうこともたびたび。教師たちはその都度、次男を探しまわった。

 

「悪気がないのはよく存じてます。でも、うちではもう手に負えません。病院か福祉施設かわかりませんが、とにかく一度、専門家に見てもらったほうがいい。それが、息子さんのためじゃないですか」

 

教師のこの言葉に、平岡さんはひどいショックを受けた。なぜなら、この学校には上の子供も世話になっていた。もう長いこと、平岡さんの子供たちと接してきた教師から匙を投げられてしまったのだ。言われたとおり、思いつくすべての施設に問い合わせたが門前払いで、「こちらでは、そういったご相談には応じかねます」という冷たい答えしか返ってこなかった。

 

同じころ、アメリカ留学を経て地元の大学に編入し、卒業後に念願だった教職へ就いた26歳の長女にも異変が起きていた。彼女は日ごろ極度におっとりしているが、一度スイッチが入ると、とことん集中してしまう。自分の限界を見極めるのも不得手だった。授業の教材作りなど山のように仕事を引き受けては、昼夜を問わず没頭。長いときはまる2日間、部屋に籠もり飲まず食わずで作業する。長女は数カ月で10キロ以上痩せ、睡眠障害を併発。診断の結果はうつ病中期。そのまま休職することになった。

 

次男と長女のことで頭を悩ます平岡さんに、手を差し伸べたのは教育委員会のある指導員だった。次男を問診した彼は「自分は医療の専門家ではないが、お宅の息子さんは発達障害の可能性が高いと思う」と言った。指導員から手渡された資料を読み進めるうちに、愕然とした。そこに書かれていた内容に、次男はもちろん、長女も長男も次女も、子供たち全員が当てはまっていたのだ。

 

発達障害と呼ばれ、脳機能の発達に偏りがある状態ということは理解できた。そこから平岡さんの猛勉強が始まった。勉強を始めて約1年後、たどり着いたのが、地元・那覇市の支援組織『さぽーとせんたーiから』だった。ここで夫妻は、当事者の親を対象としたペアレント・トレーニングを受講する。所長で言語聴覚士の前田智子さんの言葉はシンプルだった。

 

「子供を辛抱強く客観的に観察してください。気になる行動を目の当たりにしても、決して評価を下さずに、ただ子供の心に寄り添い、ありのまま受けとめてください。そして気付きを促すことです。発達障害の人は、周囲の理解を得られず自己肯定感が持てなくなっている人が多いんです。だから自分の力がどうすれば発揮できるのか、どうすれば自分を肯定できるようになるか、を一緒に考えてあげることが大事なのです」

 

できて当たり前と思われることも、できたときにはきちんと褒めるよう努めた。小さなことを繰り返すうち、次男のパニックが少しずつでなくなった。さらには、子供4人が生き生きとしてきた。それぞれ強い個性の持ち主だが、その個性がいっそう色鮮やかに輝きだしたのだ。平岡家にはもう一つ大発見があった。それは妻が自らを発達障害だと自覚したことだった。ある晩、おもむろに妻が食卓を囲む家族を見回して、こう演説をぶった。

 

「私たちは普通の人とは、いろんなものの感じ方が全然違う。それはもう、日本人と外国人以上にかけ離れた感覚よね。私たちはきっと火星人なの。地球の人が持っていない、でも、とっても素晴らしい感覚を、生まれながらにプレゼントしてもらったの。だからね、あなたたちも、普通になれないからって卑屈になんかなっちゃだめ。堂々と胸はって、火星人として生きていけばいいのよ」

 

妻の高らかな火星人宣言に、「うちの家族のことを、世間にむけて発信しよう」と平岡さんは意志を固め、ブログを大きく模様替えした。扱うテーマの大部分を家族の日常や発達障害のこと。次いで、妻の発案で平岡家をモデルとした絵本を作った。物語は平岡さんと妻が、絵は長女が担当。そして、今年7月から『沖縄タイムス』での漫画連載もスタートさせた。

 

「まずは、仲間を探し、思いを分かち合いたい。そして、家族が少しでも生きやすくなるように、1人でも多くの人に、発達障害という特別な個性を持った人がいる、ということを知ってほしい」(平岡さん)

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