〔百二回までよ鞦韆(ぶらんこ)も毬つきも〕。これは金原まさ子さん(103)が、99歳のときに発表した俳句。その句とは裏腹に金原さんは、100歳を超えて、ますますみずみずしく過激にはじけた。美しい男が好きで、最近はスケートの羽生結弦くんがお気に入り。「アベノミクス」「ボーイズラブ」など、新しい動きを即チェックする好奇心や、美に対する欲望はどんどん高まっている——。

 

ポカポカ陽気の3月末、横浜市金沢区の高台にあるお宅の居間で、金原さんは新聞の切り抜きをしていた。切り抜きを見せてもらうと、「同性婚レポート」と、男性ポートレートで知られる写真家・森栄喜氏の写真集の紹介だった。

 

「同性婚にはとても、興味、あります。写真集もすぐに取り寄せるつもりです。30年前に映画『戦場のメリークリスマス』で同性間の恋愛を知ってからは、その美しさに魅せられて、“ボーイズラブ”、大好きです」(金原さん・以下同)

 

以来、映画で日本人士官役を演じた坂本龍一のファンだそうで、部屋の片隅には、坂本のCDや写真集、カセットテープが段ボール箱いっぱいに詰まっていた。

 

金原さんが俳句を始めたのは49歳。遅咲きとはいっても、すでに半世紀以上のキャリアだ。これまで4冊の句集を出版し、昨年2月に出版された最新作『カルナヴァル』(草思社刊)は、句集としては異例の4千部を発刊し、続いて出版されたエッセイ『あら、もう102歳』は1万部を突破した。

 

出版直後の9月には『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に登場し、黒柳さん顔負けのマシンガントークと、「夢は整形手術!」と語るユニークな個性で、一躍話題の人に。現在も「金原まさ子百歳からのブログ(かねこねこ俳句便)」で1日1句、発表し続けている。

 

「私、外で俳句の素材を集める吟行はいたしません。机上派です。活字やニュースから短い単語をキャッチして、俳句にするのが好きです。そのちょっと変わった言葉拾いが、いわば、私のウリ」

 

句集を開けば、金原ワールド全開。〔わが足のああ堪えがたき美味われは蛸(たこ)〕〔山羊の匂いの白い毛布のような性〕。美しくも不道徳な17文字からは、ときに性愛の香が匂い立ち、なまめかしく、とんがっている。

 

金原さんが俳句を始めたきっかけは、読売新聞地方版の俳句欄だった。投稿した作品が掲載されたのだ。それから俳句一色の人生だ。大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』を見たのは’83年。72歳のとき。

 

「ヨノイ(坂本龍一)とセリアズ(デビッド・ボウイ)の接吻は、たったあれだけの接触なのに、なんで興奮したのか。男女の愛よりもっと純粋なものを感じたのでしょう」

 

年を重ねるごとに、作る俳句は過激になってきた。ブログに掲載される最近の句は、10代の女のコかと思うほどの清新な感性だ。

 

〔春の月ゆらりと象の鼻ピアス〕〔冬バラ咥(くわ)えホウキに乗って飛び回れ〕〔ずかずかと月が鱏とえいの間〕。

 

「エイを漢字とひらがなで使い分け、同性愛のタチとウケを表しております。アハハ」

 

金原まさ子103歳。彼女の青春は、まだまだこれから。

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