認知症の社会費用は年間14兆5千億円との推計が、先月末、厚生労働省より発表された。社会費用とは、国や自治体、本人、家族などが支払う医療費や介護費だけでなく、家族などが無償で行う介護ケア(以下、家族ケア)まで含めたもので、初めての試算だ。
「家族ケアのうち、食事や排せつなどの介助は介護保険を使ってヘルパーさんなどに依頼した場合の費用に、掃除や洗濯などはその時間、働いていたらもらえたはずの給料に置き換えて、算出されました。結果は6兆2千億円と、全体の4割にも相当。認知症の方1人当たりでは、年間382万円にのぼります」
そう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。国は今年4月から特別養護老人ホームへの入所を要介護3以上にするなど、介護の主体を施設から在宅へとシフトしている。そのため、家族の負担は今後、ますます増えていくと思われる。
「最近では、介護が原因で離職する方が年間10万人を超えています(平成24年・総務省)。ですが、できる限り、仕事は辞めてはいけません。介護する方は、さまざまな制度などを最大限活用して仕事を続けましょう。保育園に子どもを預けて働くように、高齢者をプロに任せて働くのです」(荻原さん・以下同)
そこで、活用できる制度などを荻原さんが解説してくれた。
「まずは介護サービスです。体は元気でも認知症の症状が出始めたときは、すぐにかかりつけ医に相談し、専門医の受診や介護認定の申請などを進めましょう。すでに介護サービスを受けている方は、ケアマネージャーとサービスの変更を検討してください。認知症の初期に適切なリハビリを受けると、症状の改善や進行を遅らせることも期待できます」
それに加えて、「介護のプロに任せて、介護する方が休息する時間も必要」と荻原さん。
「次に、認知症で特に困る徘徊には、高齢者見守り・SOSネットワークなどが有効です。自治体が主体の事業で、事前に高齢者を登録。行方不明になった際は、サポーターや事業の協力者が捜します。平成25年の行方不明者届のうち、認知症の方は1万322人(警察庁)。増加傾向ですから、見守り事業を行う自治体も増えています。お住まいの自治体に問い合わせを」
また、徘徊対策にはさまざまなグッズもある。
「玄関を出ようとするとメロディが鳴る人感センサーや、一緒にいてはぐれたときなど離れるとアラームが鳴る警報器も。GPS機能付きの携帯電話なら居場所の推定も可能です。うまく利用しましょう。さらに人の力も借りましょう。ご近所には現状を伝え、見守りや声掛けをお願いします。きょうだいや親せきとは、よく話し合ってください。たとえば夜間の介護を1人で担わず、当番制で引き受けてもらう。遠方に住む親せきには、当番負担の代わりに資金援助などを依頼してもいいと私は思います」