2014年9月から2015年8月までの1年間、ウェブ女性自身で連載された、「行って絶対損しない!”京都”絶景庭園へのススメ。」が、このたび『一度は行ってみたい京都「絶景庭園」』として文庫化(小社刊、知恵の森文庫)された。

ガーデンデザイナーとして引っ張りだこの烏賀陽百合さんが、京都の庭の魅力を美しい写真とともにわかりやすく伝えていて、発売早々大きな話題を呼んでいる。烏賀陽さんに、この本の読みどころについて解説してもらった。

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宝厳院 獅子吠吼の庭

私は、「庭オタク」だ。庭が好きで好きで、時間ができるとどこかの庭を見に行く。いい庭があると聞くと、いても立ってもいられなくなり、すぐさま飛んで行く。毎月同じ庭に通うこともある。

京都に住んでいるおかげで、その庭が一番美しい時期を狙って見に行くことができる。そのため、なかなか他の場所に引っ越すことができない。私の生活は完全に庭中心に回っている。いい庭を見ると心踊り、その美しさに見惚れる。皆さんが美術館に行って素晴らしいアート作品に感動するように、私は庭を見て、その石や灯籠、苔や楓の素晴らしさに感動する。そこが庭オタク=庭オタたるゆえんだ。

なぜ庭がそんなに魅力的なのか、庭オタの私が、庭の中でも京都の庭の魅力に絞って少しお話ししたい。

京都にはたくさん美しい庭がある。しかし、その庭の見どころや歴史を分かりやすく解説したものが庭園の周りにほとんどない。パンフレットに少し解説があるだけだ。良い庭は寺院にあることが多いので、庭だけを取り上げることができないのもいたしかたないのだが。そんなぐあいに情報が少ないこともあって、私も最初は、感覚的にしか庭の美しさを捉えることができなかった。何がそんなに魅力的なのか、言葉では説明できなかった。

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無鄰菴 秋の庭

しかし天龍寺の「龍門瀑(りゅうもんばく)」のことを知った時、庭に対する考え方が変わった。龍門瀑とは、鯉が滝を登りきると龍に変わるという中国の故事「登竜門」を表した滝のこと。頑張れば鯉も龍に変わる、ということで、立身出世や修行の教えのたとえに使われた。「アイドルの登竜門」などという言い方で、皆さんも耳にしたことがあるだろう。

この話はよく絵の主題としても描かれていて、襖絵や掛け軸でも見られる。しかし、その話を「石」を使って表そうとしたことが、私にとって衝撃だった。鯉の形を表した石まであるのだ。視覚に訴えるために絵を描くというのはよく分かる。しかしもっと分かりやすく、3Dの世界で表そうと、石を使って立体的な滝を作ったところがすごい。

石だからと言って、決して原始的なものではない。当時の知識や技術の粋を集め、中で最もセンスのいい庭師に作らせたのだろう。何百年経った今もなお美しい。きっと当時の人は「飛び出る3D龍門瀑」を見て、わぁっ!と驚いたに違いない。私たちも映画「アバター」で初めて3Dの世界を体験した時、度肝を抜かれた。最新の技術を駆使して3Dの世界を表そうとするところは、今も昔も変わらない。

そんなことを考えると、昔の人になんだか親しみが湧いてくる。庭から往時の人々の価値観や工夫を知ることができるとわかってから、私はどんどん庭にハマり、庭オタになっていった。

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龍安寺 石庭

そんな京都の庭の魅力を知ってもらいたく、ウェブ女性自身での連載を始めた。最も気をつけたのは、難しい庭園解説書にならないようにすること。私が現地で庭のガイドをしているかのように書いたつもりだ。また庭とは関係のない、海外の人のおもしろ話や京都のあるあるエピソードなども書いて、クスッと笑えるようにした。

一番苦労したのは、庭園用語を解説すること。その専門で無い限り「滝石組」や「三尊石組」といった単語は普段の会話で出てくることはない。しかし庭の説明をすると、どうしてもそれらの単語は不可欠になってくる。誰もが理解しやすいよう、なるべく単語の説明を入れた。

英語の単語の意味が分かると、英語の本や映画の内容が分かって面白くなる。またそれまでは理解不能だった外国の人の話が、単語を知ることで内容が分かり、楽しくなってくる。

庭園用語を知ると、庭の意味がわかり、面白くなってくる。ただの石と苔にしか見えなかったものが、急に生き生きとした鯉や龍や虎に変わり、荒波にそびえ立つ険しい山に見えてくる。

日本庭園とは、見る側に「想像させる」庭だ。その想像が楽しくて、庭オタは心震える。

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光明院 波心庭

色々な国の庭を見て周ると、庭はそれぞれの国の文化や価値観を表していることに気付く。優れた庭は、その文化が最も成熟した時期に作られることが多い。その時の優れたデザイナーや技術者達が叡智を集めて、一つの庭を完成させる。

日本庭園も同じだ。様々な技術と美意識の元に素晴らしい庭が造られる。成熟した文化が生まれる場所には、必ず美しい庭園が存在する。

京都の美しい日本庭園を見て、ぜひ繊細な日本人の美意識を知って欲しい。庭を造った人の美意識に触れると、自分自身の感性も磨かれる。おまけに美しい自然の中で、精神的にもリラックスもできる。こんな素敵なエンターテインメントが他にあるだろうか。

この本を読んで、庭の魅力を知って、あなたもぜひ庭オタになろう。

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『一度は行ってみたい京都「絶景庭園」』(光文社知恵の森文庫 税込907円)

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