「外務省から飛行機に乗るという連絡があって、警視庁はあわてて逮捕状を取ったそうです」(韓国大手紙記者)
靖国神社テロ事件で警視庁公安部にマークされていた韓国人全昶漢容疑者(27歳)が、9日、日本に再入国し、建造物侵入容疑で逮捕された。
「公安部幹部が入国に『驚いた』と言っていた」(警視庁担当記者)という突然の来日。あまりに不自然な全容疑者の行動に、「韓国政府が彼に来日を促し、政治的決着をおこなったのではないか」(同前)という密約説が囁かれている。韓国事情に詳しいジャーナリストが語る。
「この事件は韓国内では政治問題と捉えられている。韓国当局が容疑者を韓国内で逮捕する可能性は低かった」
日本と韓国の間には犯罪人引渡し条約が締結されているが、「政治犯」は引き渡しの対象外。2011年に靖国神社に放火し、翌2012年に在韓日本大使館に火炎瓶を投げつけたとして韓国で逮捕された中国籍の男が、政治犯として日本への身柄の引き渡しを拒否された。
だが、「当時とは事情が異なる」と語るのは、前出の韓国大手紙記者だ。
「ここ数年、韓日関係の急激な悪化に、ウォン高が重なり、韓国経済は悪化の一途でした。現在、韓国の外交部は、韓日首脳会談まで漕ぎ着けた韓日関係の維持を最優先としている。今回の事件も、韓国の外交部が日本の外務省に外交ルートで解決できないかと働きかけたようです」
日韓国交正常化50周年の節目の年。11月には3年半ぶりの日韓首脳会談が実現し、雪解けが演出されたことは記憶に新しい。そんななかの爆破テロ。容疑者を放置すれば日韓関係の悪化は必至。だが、日本に引き渡せば韓国内の「反日派」の感情を刺激する。“自主的な来日”で逮捕というのが、もっとも都合のいいシナリオだった。
韓国外交部は「容疑者に働きかけなどはしておらず、本人の考えで再入国した」と説明しているが、具体的な交渉ルートまで浮上している。
「韓国外交部の日本課長である呉珍姫を中心に解決をはかったと聞いています。呉課長は在日韓国大使館の元1等書記官で、日本語も堪能です。また、外交官としては親米派で、今回も日韓関係の悪化を嫌う米国の意に沿った形になった」(前出の韓国大手紙記者)
11日、再来日した全容疑者の所有物から、火薬のような粉末とタイマーのような装置が見つかったと報じられた。今後、容疑者はどう裁かれるのか。前出のジャーナリストはこう語る。
「法廷で全容疑者から、何が飛び出すかわからないので、裁判まではいかないのではないか。日韓で適当なシナリオを作り、韓国へ帰国させると思う」
12日現在、全容疑者の逮捕容疑は靖国神社への建造物侵入容疑のみだ。しかし、「警察庁は、外交決着に納得していない。なんとしてもテロで挙げる」(警視庁関係者)という。
靖国のトイレを焦がした爆弾の火種は、いまも日韓に燻りつづけている。
(FLASH 2015年12月29日号)