渋谷区宇田川町。センター街の喧騒を少し離れたところに、116台を収容できる大規模な駐車場がある。広さ3419.75平米。NHK放送センターまで徒歩2分とかからない。この土地が、NHKの子会社、NHKビジネスクリエイトが主導していた「350億円用地買収計画」の現場だ。
12月8日、NHKの経営委員会の指摘に、籾井勝人会長は用地買収の中止を決定、構想は頓挫した。元NHK記者の柿沢未途衆院議員が憤る。
「外部の有識者からなる経営委員会は、いちいちものを言う厄介な存在。だから土地購入のことも伝えなかったのでしょう。土地が必要ならNHK本体が購入すればいいものを、子会社に買わせて誤魔化そうとしたのです。受信料を私物化に近いものにしている」
そして350億円という価格には、土地売買に詳しい不動産業者も「破格の高値」と驚きを隠さない。
「この面積で350億円といえば、坪あたり3300万円を超える計算になる。周囲の路線価は坪660万円程度。実取引でもその3倍が限度です。オフィスビルやマンションを建てるには、とても見合う価格じゃない。350億円どころか200億円でも高すぎますよ」
では、天下のNHKと渡り合ったのはいったいどんな相手なのか。実際にNHKと交渉したのは、大手証券会社系の不動産投資会社D社とされる(本誌取材にはノーコメントと回答)。だが、登記簿によれば、件の土地の所有権は2008年に不動産投資会社X社が取得している。別の不動産業者は「一般的な取引としてみれば、違法性はない」と言いながらこう語る。
「リーマン・ショックで業績が悪化していたX社は、一刻も早く売却したかったんです。いまのまま駐車場にしていても、固定資産税や金利負担が大きいので商売にならないですから。X社はこの土地を400億円で取得したとされ、350億円でもディスカウント価格なんですよ。X社はまず、あるホテルチェーンに掛け合ったが、そのホテルはすでに渋谷に何棟も所有していたので断られた。そこで、NHKの籾井会長に直接もちかけた」(不動産業者)
子会社の購入計画に、じつは籾井会長自身も関与していたというのだ。X社に聞くと「個別案件の情報であり、守秘義務もあるためお答えできません」との答えだった。前出の柿沢議員はこう話す。
「籾井会長の資質を問う時期はとっくに過ぎています。少なくとも私は国会で経緯を聞いてみたい」
本誌が直撃した籾井会長はマスク姿で目にはガーゼのようなものを付け、無言だった。局の現状を直視し、語っていただく義務がある
(FLASH 2015年12月29日号)