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機械の発するガガガーッという重低音のなか、女性のほっそりとした手元では、まるで線香花火のような小さな火花が散っている。この火花こそ、細穴放電加工を手がける町工場「エストロラボ」の象徴ーと聞いていたが、何がなにやら、記者にはさっぱりわからない。そんな作業の間にも、次々に宅配業者がやって来て、「〇〇工業さんです!」と全国から加工の注文が届く。

 

ここは、ものづくりの町として名高い大阪府東大阪市。バブル期には1万社の町工場がひしめき、現在でも7千社ほどが日々、汗と油にまみれながら営業を続けている。創業10年のエストロラボは、近鉄荒本駅近くのマンション1階にある。

 

「彼女はいま、1センチ角の鉄パイプに、0.8ミリの穴を開けているんです。あっ、写真はなんぼ撮ってもらってもかまいませんが、取引先名と図面、メカの核心部分は企業秘密なんで(笑)。撮影NGで」

 

明るくポンポンッと話すのは、エストロラボの社長、東山香子さん(43)。細穴放電加工とは、簡単にいうと、電気エネルギーを加えたときに発生する火花によって、金属などを微細に爆破して溶かすように穴を開ける加工法だ。

 

エストロラボは、この細穴に特化した技術が高く評価されている。0.1ミリを最小単位とし、1穴は高くても数千円から数万円。直径2ミリのピンに、0.8ミリの穴を縦に開けるという依頼にも応える。

 

ここで開けられた極細の穴は、たとえば半導体を運ぶときに使う吸着ノズルの穴など、医療品や自動車、果ては航空部品まで、幅広く使われる。つまり、私たちが見慣れている商品を作るための機械や道具の、さらに微細な部品づくりのための加工を請け負っているのだ。縁の下の力持ちといった存在だ。

 

「Xが39.500、Yが0.000、Zがマイナス……」

 

ぶつぶつと座標軸の数字をつぶやきながら、最年少の社員、釼持あらたさん(35)が作業を続けている。髪の毛より細い電極を巧みに操作し、ときに大きな虫眼鏡のようんルーペ越しに加工。火花を散らす接触部分には、これまた極細のホースで水を注いでいく。その集中力たるや、とても話しかけられる雰囲気ではない。ふと、その指先を見ると、きれいなネイルが−−。

 

そう、エストロラボは東山さん以下女子3人で創業し、現在も社員7人のうち女性5人が働く町工場なのだ。ちなみにエストロラボという社名は、イタリア語で東を意味する「エスト」、女性ホルモンの「エストロゲン」、それに研究所の「ラボラトリー」を組み合わせた造語である。屋号は、わかりやすく、「細穴屋」。資本金は、東山さんが借金で用意した100万円を含め、600万円でスタートした。

 

創業当初は、近所の工場を一軒一軒、自転車をこぎまわっては営業していくたび、「女なんか信用できひん」「女に図面、読めるんか」「見積もりが高すぎる。何様や思うてるねん!」と、数々の罵声を投げつけられ、門前払も少なくなかった。

 

「会社として、9年かかってようやく一人前になりました」(東山さん)

 

今年1月、東山さんは初めてボーナスを出した。前年の’14年に、ようやく黒字化したのである。売上高は5千700万円。年明けの’16年3月には、エストロラボも操業11期目となる。顧客は1千社近くになり、オランダやエジプトなどからも注文が入る。

 

エストロラボは完全フレックス体制。1日、7〜8時間、月21日労働が基本。一貫して変わらないのは、女性が働き続ける職場づくり。そのため社員ひとりひとりと、保育園の送迎時間や学校の行事など、家庭の都合と相談しながら、勤務計画を決めていく。

 

「とくに子育て中だったりすると、仕事と家庭の両立が難しい問いう現状をいっぱい見ていた。女性が働きやすい職場を作ることは、社会貢献にもつながると思うんです」(東山さん)

 

現在の7人の社員のうち1人は、‘12年に正社員になってもらった実兄であり、1人は研修中の37歳の男性。東山さんの目標は、年に1人ずつ社員を増やして30人体制にすることだ。

 

「もう女や男やと言っている時代じゃない。その30人も、20代から50代まで、全世代がいるのが理想。そうすれば誰かが産休や育休、介護で休んでも、別の誰かがフォローできる。シングルマザーもファーザーも大歓迎です」(東山さん)

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