「経営再建中の東芝やシャープは、経営側としてはボーナス全額カットも辞さない構えでした。しかし、住宅ローンを抱える社員も多く、『なんとかボーナスを確保してほしい』という社員からの強い要望を無視できなかったようです」(経済部記者)
労働組合が企業に対して賃上げや労働条件の改善を要求する“春闘”。3月16日は、大手企業の多くが、春闘に対する回答を組合に伝える“一斉回答日”だった。月の基本給を増やすベースアップ(ベア)要求に対し、「増やす」という回答が自動車や電機産業で相次いだ。もう一つの争点はボーナス。昨年、中小企業も含めた、民間企業全体の夏のボーナスは、前年比マイナス2.8%と大きく減少した。今年の夏のボーナスも、どんどん減っていくばかりなのだろうか。
そこで本誌は、ニュースで話題の企業も含め、大手企業40社のボーナスを総力調査。経済団体の発表や労働組合への取材などをもとに、各社35歳モデル社員への支給額を算出してみた。昨年10月、マンションのくい打ちデータ偽装問題が問題になった旭化成建材。親会社の旭化成は110万円をキープした。円安や原料安の追い風もあり、化学・繊維部門が好調だったことが背景にあるようだ。昨年8月に鹿児島県の川内原発を再稼働させたことによって、1カ月に120億円もの収支改善が見られた九州電力は、今年度の決算が黒字の見通しとなった。それをうけ、1.5倍にボーナスが増加することとなった。
サラリーマンへ賃金アップの波が押し寄せているのだろうか? だが、このボーナス増額は、「手放しでは喜べるものではない」と経済アナリストの森永卓郎さんは語る。
「今回の春闘では、大企業は賃金のベースアップに対しては慎重な回答を出しました。トヨタですら、昨年のベア4千円に対して、今年は1千500円です。トヨタに限らず多くの企業は目下の業績がいいのにも関わらず、ベアという形で社員に恩恵はもたらされていません。一度ベアを行ってしまうと、賃金の額は下げられないので、大企業でも大幅なベアに対しては二の足を踏んでいるんです。そのぶん、夏のボーナス額アップで社員のモチベーションをカバーしよう、という経営側の意図が見えるというのも今年の特徴といえるでしょう」
控えめなベア回答から目を背けさせるようなボーナスアップ。しかし、それすら今後はあるかわからない、と森永さんは語る。
「アベノミクスの考え方は、大企業を優遇すれば国民にもその利益が行き渡るというもの。そのために安倍首相は法人税を10%近く下げているわけですが、経済はよくなっていない。アベノミクスが間違っていることがわかります。足下の景気状態は決してよいとは言えず、’08年のリーマン・ショック以来の経済悪化への懸念もでてきています。そうなるといよいよ経営側は給与増だ、ボーナス額アップだとは言えなくなります」