「なっちゃんの周りにはいつもたくさんの笑顔がありました。たくさんの人に出会い、たくさんの人に愛されて。短い人生でしたが、なっちゃんは全力でその命を完走したんだと、私は思っています」
6月21日に発売された本誌「シリーズ人間」に登場した放送作家・藤村晃子さん(43)は、目にいっぱい涙を浮かべながら、愛する長男・夏海ちゃんの生涯を振り返った。
昨年春に受けた出生前診断で藤村さんは、おなかの赤ちゃんに「18トリソミー」という染色体異常による重い障害があると知らされた。それでも彼女は妊娠の継続を決断。
医師からは「出産までたどりつける可能性は10%」と聞かされたが、昨年8月19日、夏海ちゃんは産声をあげた。心臓の壁に2つも穴があって、生後7カ月までは新生児集中治療室での入院生活を余儀なくされたものの、今年3月には退院までこぎつけた。
「担当の先生からは、1歳の誕生日を迎えられる可能性も10%ほどと説明されていました。でも、わが家に帰ってきたなっちゃんは本当に元気で。1歳どころか、もっともっと長生きしてくれると、そう思っていました」
ところが……、7月5日、事態は急変。夏海ちゃんは322日という短い生涯を終えた。
悲しみの癒えない藤村さんをさらに動揺させたのが、神奈川県相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件だった。
「ニュースを見て、心臓が震えるほど恐ろしかった。そして、容疑者が話していたという主張を知って、ただただ悲しくなりました」
19人もの命を奪った植松聖容疑者(26)は、「重度障害者には生きる価値はない」といった趣旨の発言をしていたという。わが子の生涯を否定するような言葉に、藤村さんはこう語る。
「価値のない命なんてありません。たしかになっちゃんは弱い命だったかもしれない。でも、その弱い命を病院の先生はじめ、周囲の人が懸命に支えてくれました。まるで自分の子供のように、なっちゃんを全力で助けようとして。体調が戻ればわがことのように喜んでくれた。人のためにあそこまで一生懸命になってくれる人がいるっていうことを、私はなっちゃんのおかげで、知ることができました」
さらに藤村さんは言葉に力を込めた。頬を伝った涙は乾き始めていた。
「どんなに健康な人であっても、やっぱり人間というのは一人一人は弱い存在だと思う。その弱い人間が社会を営み、繁栄を築けたのは、助け合うという特別な才能のたまものだと思うんです。いわば人間らしさの原点、助け合う心の大切さを、なっちゃんのような病気や障害を抱えている人たちは教えてくれるんです」