’16年を彩った「女心に大ヒット」したブームの数々。そんなブームの裏には女性仕掛人がいた。そんな女性仕掛人たちがヒットの舞台裏を語ってくれました!
■「若冲展」
4月下旬から1カ月、東京都美術館で開催された「若冲展」。入場者数約44万6,000人を記録し、入室まで5時間以上待つ日もあったという。江戸時代の絵師、伊藤若冲が生誕してから300年を記念したこの展覧会を仕掛けたのは日本経済新聞社。
目玉になったのは仏画『釈迦三尊像』3幅と、『動植綵絵』30幅の展示室。若冲は両作品を京都・相国寺に寄進したが、明治になってから、『動植綵絵』が宮内省(現・宮内庁)に寄贈されたため、東京で一堂に会したのは、同展が初めてのことだった。
3年前の’13年から企画されていたが、実現まではなみなみならぬ苦労もあった。日本経済新聞社・執行役員・文化事業担当補佐の伊藤圭子さん(55)は言う。
「生誕300年を記念しての展覧会でしたので、若冲の代表作を、年代を追って展示するためには、宮内庁が所蔵している『動植綵絵』以外の作品も、お借りしなくてはいけませんでした。個々にお寺や美術館と交渉するわけですが、節目の年ということもあり、若冲展を企画していた団体も多く、優れた作品を集めるための交渉は難航しました」
東京から地方へ何度も足を運び、ようやく会期の後半だけ展示することができた作品もあったという。
「生前の若冲は、『千年後に私の絵を理解する人が出てくるかもしれない』という言葉を残しています。まさにその言葉どおり、彼の絵の魅力が、若い女性たちにも受け入れられたのです。日本美術でいえば、1人の作者の作品で、短期間にこれだけ入場者を集めたのは初めてのことだと思います」(伊藤さん)
■「おそ松さん」
「制作・宣伝スタッフともに、とくに女性向けを意識したわけではないんです。それが、ここまで熱狂的に愛していただけるようになるとは、正直びっくりです(笑)」と話すのは、エイベックス・ピクチャー株式会社『おそ松さん』宣伝プロデューサーの長屋圭井子さん(42)。
赤塚不二夫の生誕80周年を記念して誕生したアニメ『おそ松さん』。昭和の子どもを熱狂させたあの6つ子が大人になったという設定で、テレビ東京などで’15年10月より放送を開始した。6人全員がニートで、“ダメ人間”にもかかわらず、またたく間に女子のハートをわしづかみに。全8巻あるDVD・ブルーレイの第1巻出荷枚数は12万枚を超える驚異的な売り上げを記録。いまや関連グッズは約2,000種類、「おそ松さん」はわずか1年強で300億円市場に成長した。
「全員がニートという設定に驚かれるかもしれませんが、赤塚先生の原作自体、ナンセンスとギャグが秀逸ですので(笑)。その魅力を現代版に置き換えたらと、制作スタッフも楽しんで作った結果、皆さまに受け入れられたのだと思います」(長屋さん)
さらに今作では、同じ“ダメ人間”でも、6人それぞれに強烈な個性を与えたのも大きな特徴だ。
「原作では『全員同じ』が個性でしたが、今回は6人全員に『奇跡のバカ』『極度のカッコつけ』などのキャラクター付けをしました。それによって、自分好みのキャラクターが見つかって、アイドルの『推しメン』同様『推し松』という言葉も生まれました」
■「NEWoMan」
JR新宿駅新南口に商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」がオープンしてから9カ月、入館者数はすでに1,200万人を突破している。利用者は1日2万4,000人という、日本最大のバスターミナル「バスタ新宿」と隣接しているとはいえ、予想以上の数字だという。その大成功の理由について、NEWoMan新宿店営業部・業態戦略グループリーダー・フロアマスター総括の中村美香さん(38)は次のように語る。
「運営しているのは、株式会社ルミネ(※JR東日本の子会社で、駅ビル型ショッピングセンターを運営している)です。しかし、NEWoManはこれまでのルミネとも、ほかの百貨店とも異なる、新しいポジションを目指してオープンしたのです。まずターゲットは30代後半以上の大人の女性に絞りました。女性の“ライフスタイル全般”を支援するため、クリニックや、保育所、貸しホール、さらに屋上には菜園も用意しました」(中村さん)
菜園以外にも、館内外は緑にあふれ、休憩スペースも多く設置している。日本初上陸のブランドの出店や、シンガポールのデザート店など、海外のレストランの初出店なども、“大人女子”たちを集める強力な推進力となった。
「約100店舗のうちの約半数が、食料品店とレストランになっています。そのうち1つが、ロサンゼルスで人気のピザ店です。私もマーケットリサーチをしました。何店舗も視察して試食し、検討した結果、直接契約することになりました。さらにその後、ほかの社員が、ロスの本店で研修・修業し、いまでは本物のピザ職人になっています」(中村さん)
とにかく徹底して、“女性のため”を意識したことが、膨大な集客へとつながったのだ。