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「モンキー&れん」の漫才は身ぶりも手ぶりも、顔の表情も、ありったけのオーバーアクション!夫役は、モンちゃん(46)。妻役のれんちゃん(42)に叱られて、激しくションボリ肩を落とす。その大げさな表情が笑いを誘う。だが、舞台にも客席にも音がない。お笑いのステージなのに、満員の会場は静寂に包まれている。ネタがつまらないのではない。観客は身を乗り出すようにして、視線を舞台に注いでいる。

 

「夫婦漫才モンキー&れん」の手の動きは、そう、手話だ。2人はろう者(耳が聞こえない人)。そして観客のほとんどもろう者なのだ。声を出さないかわりに、破顔し、息を吸うとき、かすかな引き笑いが出る。静寂であっても、大ウケだった。

 

唯一、聞こえてくるのは、マイクを通した女性の声。高島由美子さん(46)が2人の動きと表情に合わせ、絶妙な手話通訳を繰り広げ、この会場では超マイノリティーである“聞こえる客”を笑わせた。すべてのネタが終了し、最後にあらためて、手話で自己紹介。

 

「モンキー高野です。実は私は、トランスジェンダー。女性として生まれたFTM(女性から男性へ)です」

 

「菊川れんです。私はもともとは男性で、MTF(男性から女性へ)です」

 

さらには、「手話通訳を務めた高島です。私は生まれたときも、いまも女性ですが、モンちゃんのパートナーとして、一緒に暮らしています」との告白に客席はネタ以上にどよめいた。

 

ろう者にしてトランスジェンダーでもある2人を、人はダブルマイノリティーとも呼ぶ。今の日本では「生きづらそう」と思われがちな彼らはしかし、濃すぎる個性を発揮しながら、超絶ハッピーな毎日を生きていた。

 

学生時代に友達の紹介で出会っていた2人。れんちゃんが19歳、モンちゃんが22歳のとき、「ろう文化宣言」の講演会で再開した。以後、2人は毎日のように会い、性の違和感を打ち明け合った。その後、れんちゃんは23歳で渡米。半年間のホームステイを経て帰国後、手話講師として全国から講演依頼が来るほど活躍する。

 

「モンキー&れん」の夫婦漫才は、「2人のふだんの会話が、まるで夫婦漫才みたいだから面白いんじゃないか」と思った高島さんの発案だった。ネタの中心は「ろう者あるある」。ろう者にとって当たり前のことでも、聴者には「へ〜」「そっかぁ」と驚きが多い。

 

モン「よく自虐ネタって言われるけど、自虐でもなんでもなく、ただの日常です(笑)」

 

たしかにろう者をガサツに描いているようにも見える。

 

れん「そのままですよ。ろう者は表現がストレートで、回りくどくないからガサツに見えるのかもしれませんが」

 

モンちゃんは手術も戸籍変更もしていないので、法律上、高島さんとは女性同士。’15年11月、2人は同性カップルをパートナーとして認める世田谷区の「パートナーシップ宣誓書」にサインをした。その様子は、全国のニュースなどで広く報じられた。同棲開始時はOLを辞めて無職だったモンちゃんだが、その後、IT企業の手話部門に就職。’16年4月、手話教室「手話フレンズ」を開設し、経営者として頑張っている。

 

れんちゃんは’10年7月、21歳上のろう者・菊川喜久さんと養子縁組の形で入籍した。「手術して戸籍を女性に変えれば結婚も可能ですが、私、手術はいっさいしていないので」と教えてくれたれんちゃんだが、夫と出会うまでは、手術しようかと何度も悩んだという。だが、喜久さんが「手術しなくていいよ。そのままのキミが好きだよ」と言ってくれた。これで迷いが吹っ飛んだ。

 

れん「ろう者で、トランスジェンダーで『ダブルマイノリティーで大変ですね』と、よく言われますが、『そうだけど、それが何?』って思います(笑)。『ろう者の生活を何も知らないのに』と複雑になりますね」

 

手話教室で、聴者の生徒たちが夫の悪口を言っているのを見ると、むしろ、こう思う。

 

れん「かわいそうだなぁって。聞こえていて、普通に結婚しても、そんなふうに感じるなんて。私は結婚して7年目だけど、いまでも毎日ハグして、キスして。幸せなんですよ。男も女も、ろう者も聴者も関係ない。結局、人生は、自分のやりたいことをどれだけ貫き通せるかですよね」

 

そう伝えて見せた笑顔には、一分の嘘も見当たらなくて、なんだかとてもまぶしかった。

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