いま親の介護・看護を理由に年間約10万人もの離職者がいることをご存じだろうか。厚生労働省「雇用動向調査」(’15年)によると、離職者が多い年齢層は、男女ともに45〜54歳。まさに“働き盛りの世代”が、毎年介護を理由に仕事を辞めているという現状がある。
「安倍政権は“介護離職ゼロ”の政策を掲げていますが、それを日本中で実現できるのは随分先の話でしょう。家族が要介護になったときにどこに住んでいれば安心なのか。そして親の世話をしながら、安心して働けるのはどこなのか−−。それは現役世代が、最も知りたい情報なのではないでしょうか。そこで今回、国の統計データをもとにしながら、首都圏、都市部の11都府県、約400エリアの市区を対象に、就業率、介護施設数といった指標をたてて集計し、順位をつけてみました」
こう語るのは、今回「介護に優しい街」ランキングを監修した、データ分析のスペシャリスト、住環境アナリストの堀越謙一さん。集計結果から見えてきたのは、財政力や地理的条件も大きな判断要素になるということ。さらに手間をかけた独自の介護サービスを展開している街もあることがわかった。本誌記者は、ランキング上位のエリアを実際に歩いて見て回り、自治体の高齢支援担当者に話を聞いた。
「特別養護老人ホームは、東京23区で整備率がトップです。現在、8施設で729床。’20年3月には、さらに100床作ります。それが完成すれば9施設、829床となります。これ以外にも、介護施設の計画の中には、小規模多機能型居宅介護施設を6施設、認知症高齢グループホーム2施設の整備を進めています」
こう語るのは、東京都港区保健福祉支援部高齢者支援課長の茂木英雄さん。今回のランキング全国2位で、財政力指数が最も高かったのが港区。同区では工夫を凝らしたさまざまな介護支援サービスを展開しているという。
「都心は地価が高いため、民間の事業者さんが土地を買い、介護施設を建てて運営することはなかなか難しい。そこで区有地を定期借地権で貸して、そこに建物を建ててもらって“民設民営”でやっていただくというスキーム。3年後に完成する特養も区有地を貸し出しています」
また、一人暮らしの高齢者や75歳以上の高齢者のみの世帯を対象とした“見守り事業”も自慢のサービスだ。さらに港区では、認知症患者とその家族などが気軽に相談できるようにと、月に1度“認知症カフェ”、「みんなとオレンジカフェ」を開催。毎回10〜15人の参加者があるという。
そして極めつきは、’14年に開設された最新施設「ラクっちゃ」。これは、11種19台の本格的なマシンを完備した大型ジムや壁に大型ミラーを備えたトレーニングルームなど、東京23区で初の介護予防総合センターである。
「65歳以上の港区民であれば、無料で利用できます。マシンを使って1人で体を鍛えるということでもよいのですが、インストラクターの指導のもと、元気な人も要支援の人も集まって、一緒に体操をする時間もあります」
六本木、赤坂、青山といったにぎやかな若者の街のイメージが強い港区だが、“介護予防”まで含めた、いたれりつくせり介護サービスにはまさに脱帽。ほかの自治体が参考にすべきところも多いのではないだろうか。