アベノミクスによる好況が伝えられているが、日本人の「餓死」は特殊なことではなくなりつつある。‘11年の国内の餓死者は栄養失調と食糧の不足を合わせて1,746人。およそ5時間に1人が餓死しているという状態だ。
「餓死の問題は、もともとは路上生活者の増加に伴うものでした。それが近年、一般家庭や若者にも広がっていると感じます。また、栄養失調については高齢者が食欲をなくして食べられなくなったケースもあるので、餓死の対象とするかは見定めの難しいところですが、少なくとも食糧不足については餓死で間違いありません」
そう語るのは、生活困窮者を支援するNPO法人「もやい」の代表を務める、稲葉剛さん。食糧不足による死者数は、’94年までは年間20人程度だったものの、’95年、路上生活者の急増によって一気に3倍の58人に。翌年には81人を記録し、’00年以降は増加の一途を辿っている。
背景にあるのは、格差社会による貧困の拡大。長引く景気低迷も重なり、「普通の人」も、生きるのが困難な状況に追い込まれているのだ。生活困窮者を支援するNPO法人「ほっとプラス」代表・藤田孝典さんも次のように話す。
「先日も、20代の男性が『もう3日間何も食べていない』と、相談に来たばかりです。彼は昨年末に突然、不当解雇され、しかも自己都合扱い。もともと安月給で借金をしながら生活していたので、失業保険が出るまでの3カ月が持ちこたえられなかったのです」
日本の貧困率(所得が標準の50%に満たない人の割合)は、いまや16%。先進国のなかでもワースト4位だ。こうした生活困窮者の最後の「頼みの綱」が生活保護。ところが、海外に比べて日本の制度は遅れをとっており、これが餓死につながっているという。
「生活保護が必要とされる人のうち、実際に受給できている人の割合(捕捉率)はわずか2〜3割。欧米の捕捉率が5〜8割であることと比べても、非常に低いのが実情です」(稲葉さん)
そんななか、安倍政権は追い打ちをかけるように、昨年8月から生活保護費の引き下げを開始。来年4月までの3年間で最大10%と、過去前例のない大幅な引き下げを断行する。また、今年7月から施行される改正生活保護法では、親族の扶養義務を強化。親族が援助を断ると理由の報告を求めたり、場合によっては家族の資産収入も調査するという。芸能人の不正受給問題を機に推し進められたこの法案に対し、前出・稲葉さんは憤りを隠さない。
「金額ベースでいえば不正受給の割合はわずか0.4%。これ以上、生活保護を抑制すると、餓死や孤立死はもちろん、犯罪や自殺などほかの社会問題も増加してしまいます」
今月1日から、消費税増税だけでなく、介護保険料の引き上げや年金引き下げなど、弱者をとことん追い詰める政策を進める安倍政権。「食べることさえままならない」日は、決して、人ごとではないのだーー。