日米はじめ12カ国が、農水産物や産業などの貿易自由化を目指し、進めていたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が、大筋で合意となった。経済評論家の加谷珪一さん(46)は言う。
「経済的な面でいえば、消費者にとってはメリットしかないでしょう。すべての品目で関税が撤廃される10数年後には、1世帯あたり年間5万円ほど得をするということになります」
TPPの対象となる農畜産物、水産物などは、時期を10数年間に細分化されて、関税が撤廃されていく。その主だった品目の関税の撤廃時期と現在の関税について調査した。
即時撤廃は、ぶどう(7.8%・17%)、マグロ缶詰(9.6%)、ヒラメ・カレイ(3.5%)、カツオ(3.5%)、ニシン(6%)、カニ(4%)、冷凍ベニザケ(3.5%)、エビ(1〜2%)など。
6年目には、ソーセージなど(10〜20%)、ビスケットなど(15%)、お茶(17%)、マーガリン(29.8%)。6〜8年目にオレンジ(16〜32%)、8年目が、落花生(キロあたり617円)、天然はちみつ(25.5%)、ワイン(15%)。そして、10年目に豚肉(高価格帯4.3%)の関税が撤廃される。
加谷さんによれば、水産物やオレンジなどについて、価格が大きく変わるようなことはないという。
「いずれの品目も、仕入れ時の価格がどんなに安くなったとしても、流通の過程でその影響がほとんどなくなってしまうからです。豚肉は、10年目に関税が撤廃されると、低価格帯のものが大量に、日本へ流入してきます。これまでは、輸入できる豚肉の最低仕入れ価格は1キロ500円ほどだったのですが、それをはるかに下回る激安品が参入できるようになります」
しかし、あまりに売り値が安いと、さすがに日本の消費者は心配して買わない。そのため、スーパーなどには並ばず、外食産業に向かうと、加谷さんは指摘する。
「レストランでは、私たちは食材の産地を選べませんよね。安いからと、よく確かめず手を出せば、結果、消費者がさまざまな面で損をする、ということになりかねません」
また、食の安全を考える「食政策センター・ビジョン21」代表の安田節子さん(68)は言う。
「アメリカやオーストラリアが使用している、合成ホルモン剤の残留した牛肉は、がんとの関連性が指摘され、世界的に輸入禁止措置が広がっています。しかし、日本は先進国で最も多く、これらを輸入している。TPPが発効されれば、合成ホルモン剤だけでなく、抗生物質漬けの牛や、遺伝子組み換え食品などがさらに大量に、日本に輸入されるようになり、食の安全が脅かされます」
ものの価格が安くなる半面、安全性に不安が残る。TPPとどのようなバランスで過ごせばいいのかが、今後の宿題になるだろう。