経済評論家の勝間和代さん(49)は、『断る力』(文春新書)など多くのベストセラーがあり、“勝ち組”になることを世の女性たちに説いて励ましてきた。
いっぽう、精神科医の香山リカさん(58)は、『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)などの著書があり、“勝ち組”になれない弱者の立場にやさしい言葉で寄り添った。
“情報を駆使して勝ち組になれ”、“いや、勝ち組になれない人だっている”――。相反する2人の論調は、’10年ごろ「カツマー×カヤマー論争」として世をにぎわせた。そんな2人が論争以来初となる“誌上対談”で当時を振り返る。
勝間「震災前の’10年ごろは『どんなに努力をしても、親や会社に言われたとおりの生き方では、苦しくなってしまう』という環境が、日本社会を支配していたと思うんです。私は、『本当の自分は、どういうことをしたいのか』ということを、自分自身で見つけるべきだと主張してきました」
香山「でも、それを『高学歴、輝かしい職歴、お子さんも3人』という“成功者”イメージが強い勝間さんがおっしゃることで、多くの人は『勝間和代を目指さなきゃいけない』と思ってしまったんではないかと。でも、そうなれなくて『自分はダメなんじゃないか』と思っている人に、私は『そんなことはないですよ』と言いたかった。勝ち組になれない少数者(社会的弱者)が、まずは自分を肯定できるようになってほしかったんです」
勝間「震災後、社会は変わりましたね。格差は確かに広がっています。しかも、『勝ち組になれない』のは、本人の努力不足ではなく、環境が原因である場合が多くなってきました。『バブル崩壊後に生まれた』とか、『入った会社がブラック企業だった』とか」
香山「そうですね。私は、勝間さんの考え方が、『社会は個人競争で、勝ち負けの結果については自己責任』というものだと思い、批判もしていました。でもね、いまになって考えると、『日本人はこう生きましょう』みたいな、たとえば『一億総活躍社会』のような、全体主義的な空気に警鐘を鳴らしていたのかなって。だから、勝間さんの『個人を大事にする自由もある』という考えは必要だったんじゃないかと、あのころに批判したことをちょっといま反省しているんですよ。逆に、いまの日本には、勝間和代のような人が足りないのかな」
勝間「世間に誤解されている部分があるとすれば、私は『社会で勝つ』ことより『自分らしく生きる』ことを重視してほしいと言ってきただけなんです。他人の価値観で生きるな、と」
力強く言い切る“かつての論争相手”勝間さんに、深くうなずく香山さん。8年がたち、勝間さんには驚きの報道があった。
今年5月、勝間さんは、ニュースサイト「バズフィード・ジャパン」で、LGBT(=性的マイノリティ)のうちのレズビアンであることを公表しているアクティビストの増原裕子さんと交際・同棲していることを公表したのだ。
シングルマザーが同性との交際を告白したことは、まさに勝間さんの持論「自分の価値観で生きる」を体現するものだった。