5年に1度、『令和』初めての年金制度の見直し時期がやってきた。政府は「年金は100年安心」と繰り返すが、実際は我々の生活を脅かすまでに、制度は疲弊していた――。
「厚生労働省は6月にも、年金の将来的な給付の予測を、令和になって初めて発表する予定です。最悪のシナリオだと、およそ15年後に、年金額が20%も減額される可能性があるんです」
こう話すのは、財政制度に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。年金財政は、人口の減少や構成比率、経済情勢などによって不安定化する恐れがある。そのため、日本の年金制度では「5年に1度」、最新のデータを基に、給付される水準を検証することが法律で定められている。
「これを『年金財政検証』と呼び、前回は『平成26(’14)年』に実施されています。その最新版となる『令和元年財政検証』が、厚労省の社会保障審議会年金部会で行われていて、前回までの例にならえば、この6月をめどに公表される見通しです」(加谷さん・以下同)
「財政検証」の柱となるのが、将来の年金予想。これを理解するには、まず「所得代替率」という言葉を理解しなければならない。所得代替率とは、「現役男子の平均手取り収入の額」に対する「夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金(=世帯の年金受給額)」のこと。
「まず、厚労省は年金のモデル世帯を、夫が元会社員で厚生年金を受給している夫婦と設定しています。この世帯の年金受給額は、国民年金(=老齢基礎年金)月額6万4,000円が、夫婦2人分で12万8,000円。加えて夫の厚生年金(=老齢厚生年金)が月額9万円で、世帯では月額21万8,000円となります」
一方、現役男子の平均手取り月収は34万8,000円。これは税引き前の年収でいうと、およそ510万円に相当する。
「この34万8,000円に対する21万8,000円の割合を計算すると、所得代替率は62.7%という水準になります(いずれも前回の「財政検証」時の値)」
「国民年金法」の原則では、所得代替率が50%を上回るような給付水準を将来にわたり確保するとされている。一方、厚労省は年金制度を維持するために、段階的に所得代替率をこの50%に近づけていくと、明言している。
「『財政検証』で、いつ50%に至るかというのが、複数のケースにおいて、試算されています。しかし、ほとんどのケースは、日本経済が順調に成長するという前提のもとに作られているんです」
前回の「財政検証」では、A~Hまで8つのケースが試算されている。そのうち、6つのケースでは、所得代替率がおよそ50%に達するのは、2040年以降という甘い見通しになっている。
「しかし、現時点ですでに、政府が目標としてきた経済成長率の数値は未達成。さらに、世界的不況の兆しも見え始めている。今後、日本の経済は、右肩下がりになっていくことが、容易に予測できてしまいます。となると、財政検証でもっとも参考になるのは、いちばん悲観的なケースになるでしょう」
前回の財政検証で、最悪の試算はケースH。2036年(令和18年)には所得代替率が50%に達し、2055年には年金積立金が枯渇。以降は、所得代替率35~37%という水準にしなければ、年金制度が維持できなくなる。
次の「財政検証」でも、同様のケースが試算される見込みだ。
現在の約63%の所得代替率よりも13%も低い、50%というのは、どの程度の水準なのか。仮に、現在の現役世代のモデルケースから試算すると、夫婦の年金は208万円、月の受給額は17万4,000円となる。現在の水準よりも20%減、年額で約53万円も減ってしまうことになる。
’17年の高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の月々の支出額の平均は約26万4,000円だから、毎月9万円もの赤字が出る計算だ。
「この『50%』という水準を想定して、今後の生活を設計していくべきです」