9月3日、これまでの発言から一転、自民党総裁選からの“撤退”を決めた菅義偉首相(72)。背景にあるのは20%台という低い内閣支持率だ。
ここまで国民からの支持を失った一因は「菅さんの“対話力”の低さにある」と話すのは、ジャーナリストの江川紹子さん(63)。
「菅さんの印象を一言で言えば『聞きたい内容が伝わってこない、誠意がない』というもの。歴代首相より会見の機会は明らかに多かったのですが……」
ネットをのぞけば、《原稿、棒読みじゃん》《質問にまったく答えていない》など、首相への落胆の声ばかり。
「菅さんには、カメラの向こうに国民がいるという意識が希薄なんだと思います。目の前の記者とやりとりだけすればいい、官僚が用意した公式答弁さえすればいい、と対話にならないんです」
質問に正面から答えてこなかった菅首相。結果として、国民にそっぽを向かれることになったのだが、これが許されてきたのは、会見の方式に問題があるという。首相会見の主催者は、大手メディアが中心に組織している記者クラブのひとつ「内閣記者会」だ。
「しかし、内閣記者会主催のはずなのに、司会進行を務めるのも、質問者を指名するのも、内閣広報官、つまり首相の部下なんです」
じつは、首相会見で江川さんはじめフリーランスの記者は、長年無視されてきたという。
「もともと、記者クラブの人しか首相会見に参加できなかったのが、旧民主党政権時代にフリーの記者にも門戸が開放されました。当時は質問をすることもできましたが、安倍政権になって、フリーの記者は質問のために手を挙げても、指名されなくなりました」
質問者として指名されるのは大手メディアが中心。政権交代から7年にわたってフリー記者が指名されることはなかった。その流れを破ったのは江川さんだ。
昨年2月29日、コロナに関する初めての記者会見を、短い質問時間だけで打ち切ろうとする安倍晋三前首相(66)に対して、江川さんは挙手しながらこう叫んだのだ。
「まだ、質問があります」
安倍前首相は立ち止まることはなかったが、江川さんがツイッターでこのことをつぶやくと大きな反響が。公平な会見を求める声が高まり、次の会見からフリーの記者も指名されるようになった。
「しかし、まだ問題のあるルールはあります。“更問いの禁止”です。結果として、首相との対話が難しくなっているのです」
“更問い”というのはマスコミ用語で、追加質問のこと。多くの人に質問の機会を作るという建前のもと、一度質問をしたら、さらなる質問を重ねることを禁じるというルールだ。結果、首相の回答がまったく体を成していなくても、質問者はそれ以上の追及ができなくなる。
「こうしたルールは菅さんや安倍さんが作ったものではなく、首相を困らせてはいけないという、周囲の官僚の過剰な忖度が生んだものだと考えています」
江川さんは菅首相とのやり取りで、質問に答えていないと、さらに質問を重ねようとしたが、内閣広報官に遮られている。