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「せき止めや痰を切る薬が、漢方薬も含めて、とても手に入りにくい状況です。胃に優しい解熱剤のカロナールも慢性的な品薄で、仕方なく別のものを処方しています。そうやって調整しても、連日『この薬が欠品したので、違う薬でもいいですか』という問い合わせが調剤薬局から来ている状態で……」

 

そう語るのは、さがみ生協病院内科部長の牛山元美さんだ。日本製薬団体連合会が公表した調査結果によると、供給不足などによって“出荷調整”となっている医薬品は、昨年8月時点で医薬品全体の約28%。後発薬(ジェネリック)に限ればじつに約41%にものぼる。供給不足の背景を、牛山さんはこう説明する。

 

「’20年末、ある後発医薬品メーカーの薬を服用した患者らに健康被害が生じたことを受け、厚労省が後発医薬品メーカーの製造ラインをいっせいに調査しました。すると、複数のメーカーで製造工程においてずさんな点が見つかり、業務停止や出荷停止が相次ぎました。そうなると、代わりに先発薬を処方するため、その先発薬も品薄になるなど、いまだに影響が解消されていないのです」

 

日本では処方薬の約8割を後発薬が占めており、それらの欠品の余波が大きな混乱を生じさせているという。こうした原因に加えて、コロナ禍による原料不足、オミクロン株以降の感染者急増などが、薬不足に拍車をかけている。対応に苦慮しているのが調剤薬局の薬剤師だ。名古屋市内の大手薬局に勤務する薬剤師の安田佳子さん(仮名)は「漢方薬までも品薄」と、こう苦悩をにじませる。

 

「コロナ感染による喉の痛みやせきの症状を和らげる葛根湯や麦門冬湯といった漢方も入ってきません。花粉症やアレルギー性鼻炎に効果のある小青竜湯も品薄。通常であれば1週間分お出しするところを3日分だけ処方して、残りは入荷次第で郵送することもあります」

 

加えて、安田さんをはじめ調剤薬局の薬剤師を悩ませているのが、子どもへの処方薬だ。

 

「赤ちゃんや小児は錠剤がのめませんから、ふだんは粉かシロップのせき止めや解熱剤を処方するのですが、それが手に入りません」

 

このところ増えている、コロナ後遺症患者の薬も不足気味に。

 

「後遺症で口内炎を訴える患者さんに処方するビタミン剤や、味覚・臭覚障害の方に処方する亜鉛入りの胃薬も入荷しにくくなっています。他店に問い合わせて、足りない薬を融通し合って乗り切っている状態です」(安田さん)

 

薬不足は処方薬だけにとどまらない。「ドラッグストアの棚からもかぜ薬が消えている」と明かすのは、三重県の大手ドラッグストアの店長・Kさん。

 

「中国のゼロコロナ政策が終わって、中国人観光客が日本で市販のかぜ薬を“爆買い”しているのが一因です。コロナ禍前から、パブロンゴールド(大正製薬)や、解熱鎮痛剤のイブ(エスエス製薬)など、“神薬”と呼ばれて中国の方に人気のある市販薬がいくつかありました。それらがコロナにも効くという噂が広まり、爆買いの対象になっているんです」

 

そのほかにも、喉の痛みを和らげる薬やテレビCMでおなじみののど飴なども棚から消えてしまう店舗が続出しているのだ。厚労省は買い占めによる欠品を防ぐため、ドラッグストアなどに「1人〇箱まで」と販売量の制限を設けるよう要請をしているが……。

 

「あちこちの薬局をまわって購入しているので、効果は薄いでしょう」(Kさん)

 

ただし「メーカーにこだわらなければ、同様の成分を処方した市販薬はじゅうぶん入手できるので、焦って買い占めに走らないで」と話すのは、東京都内のドラッグストアに勤める、市販薬に詳しい薬剤師の新井佑朋さんだ。

 

「中国人観光客は、『パブロン』『イブ』といった薬のブランドにこだわりをお持ちです。そのブランドが欠品している場合は、同様の成分が入ったほかのメーカーの市販薬をご案内しています」

 

適切に使用することで病気を乗り越える心強い味方になる医薬品。本当に必要としている人の手元にいきわたることを願いたい。

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