■前例のない場所を通過する可能性も
北朝鮮のミサイル発射の意図について、北朝鮮情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授が解説する。
「北朝鮮は、武力で韓国を占領したいという野心を捨ててはいません。しかし、韓国と戦おうとしても、米国が韓国を助けるから手が出せない。そこで“私たち(北朝鮮)と韓国が争ったときに手を出したら、私たちはあなたがた米国の領土を核兵器で攻撃するぞ”という脅しの意味で、米国に届くミサイルを開発しているのです。
ただあくまで脅しであって、北朝鮮は米国と戦いたくはありませんから、現在のところは、米国を刺激しつつも、米国が決定的には怒らないような配慮をした場所を狙ってミサイルを飛ばしています」
米国を怒らせない範囲で挑発しているようだが、とはいえ一歩間違えば大変な事態にーー。
「コリア・レポート」の辺真一編集長は、こんなケースを指摘。
「北朝鮮の弾道ミサイルは、グアム、ハワイなどを射程に収めており、日本列島の上空を飛び越えていきます。ただ、『周辺諸国の安全を考慮してミサイルを発射している』といつも言っており、実際にミサイルや部品が落下したことによる被害を出したことは一度もないんです。
しかし絶対にトラブルを起こすことがないとはいえません。万が一、日本の飛行機や漁船に命中した、あるいは領土に着弾したとなると、これはただごとではありません」
北朝鮮のミサイルは過去7回も日本の上空を通過している。今回は北海道周辺だったが、今後、心配な地域はあるのだろうか。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに聞いた。
「今は本番ではなく、発射実験をやっているわけですが、北朝鮮としてはなるべく国際社会の反発が少ないところを選んで撃ちたい。北のほうに撃てばロシアの横を通るし、南に撃てば中国や韓国が面倒くさい。日本のほうに撃つのが風当たりが最も弱いのです。そう考えると、その方面である程度距離を飛ばせつつ“気を使ってますよ”という感じが出せる、津軽海峡の上空あたり、北海道、青森のあたりを飛ばす可能性が最も高いです。
また過去に、“人工衛星だ”という口実で飛ばしたときには、2つの方面に撃っています。まず、南のフィリピンの方面で、沖縄地方の上空を通過しました。もうひとつは東の方面。最初のころのテポドンがそれで、秋田と岩手の上空を通過しています」
万が一、実験ではなく“本番”で米国方面に飛ばそうとしたら、危険な地域はさらに広がってしまうそうだ。
「もしハワイに飛ばすとなると、東北地方北部の上空を通過しますし、いっぽうグアムに飛ばすとなると、中国・四国地方の上空を飛ばすことになります。過去に一度、北朝鮮はグアム周辺に発射する計画を発表したことがあり、そのときは中国・四国地方の上空を通るので、現地に自衛隊がスタンバイしていたこともあります」
さらに黒井さんは「今後、どんな状況の変化があるかはわからない」とも言う。
「日本列島の前例のない場所を通過することも可能性としてはあります。今回、Jアラートの正確性も取り沙汰されていますが、警告が出たら1秒でも早く建物内に避難することが重要でしょう」
心配しすぎてパニックになってもいけないが、情報を得たら素早く対処できる準備はしておきたい。