■モデル世帯よりも受給額が低い人が多い
所得代替率が下がっていくことは間違いないが、今後の経済状況次第で、どれくらい下がるか、どのようなスピードで下がっていくかは異なってくる。今回の財政検証では、経済状況に合わせた4つのシナリオが示された。
それに対し、「楽観的なシナリオが多い」と指摘するのは関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんだ。
「これらのシナリオのうち、政府が全面的に押し出したいのは、2番目に経済状況がよい『成長型経済移行・継続ケース』でしょう。しかし前提となる条件を見ると、かなり甘い。
長期的な経済成長率を左右する全要素生産性(TFP)上昇率が今後1.1%で推移していくと想定されていますが、これはバブル期を含んだ過去40年間の平均値から出された値であり、内閣府の推計で見ると直近の2024年1~3月期の値は0.6%にすぎません。このほかにも、2023年には1.20だった合計特殊出生率が1.64まで高まるという、甘い想定も気になるところ。
うがった見方をすれば、衆院選を控え、楽観的な経済想定で100年安心という見通しを描いてみせたように感じます。実態はもう1段階経済状況が悪い『過去30年投影ケース』に近いでしょう」
前出の加谷さんも同意見だ。
「もっとも楽観的な『高成長実現ケース』では、アベノミクス当時に政府が掲げていたような甘く楽観的な数字を前提に試算を行っているので、現実的ではありません。よほど経済が好転すれば2番目の『成長型経済移行・継続ケース』もありえるかもしれませんが、現在の経済状況に即したシナリオは、3番目に悪い『過去30年投影ケース』と言えるでしょう」
詳しく見ていこう。同シナリオでは現在61.2%の所得代替率が、5年後の2029年度には60.1%となり、2040年度には56.3%、2057年度には50.4%にまで落ち込み、それ以降は維持されると予測されている。
今の50歳が年金を受給し始める2040年度の所得代替率56.3%を、現在の水準にあてはめると、受給額は月20万8310円。つまり、現状の年金よりも月1万7690円、年にして21万2280円も減額されるのだ。
「しかもモデル世帯は平均的な賃金の会社員で、40年切れ目なく厚生年金に加入している夫と、専業主婦の妻がいる世帯のことです。ほとんどの人はモデル世帯より、年金受給額も、所得代替率も低くなります」(北村さん)